金継ぎ
「今日も、顔が見られて良かったよ。」
先生は、静かにそう言った。
放課後の保健室。カーテンから漏れる淡い金色の光。わたしは、ソファに沈みこむ。天井を見上げ、ため息とともに、目を伏せる。
先生は、言葉を続ける。
「今すごく大変だよね。皆が皆、経験することじゃないと思う。」
伏せた目を上げることができない。
「だけど、きっと乗り越えられる。そしてね。この経験を糧に、将来誰かのつらい思いに寄り添える大人になれる。だってあなたは優しいから。」
わたしは、そんなわけないと思いながら、目を開けた。思いとは別に、「そうだといいな。」とポツリ呟いた。
壁時計の秒針を眺める。何も見えない将来に、再び目を伏せた。
あのとき、わたしは、高校生だった。
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