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【自分たちが持っている価値観や常識をいったん括弧に入れ、絶対的なものではないと認識しないかぎり、そこでの体験を咀嚼するのは難しい】世界のアーティスト・イン・レジデンスから|上海編

「世界のアーティスト・イン・レジデンスから」はPARADISE AIRスタッフが参加したシンポジウムや視察の経験を共有する報告会シリーズです。スタッフ間の情報共有を公開イベントとして行うことで、世界各地のAIRの最新情報をお伝えしたり、AIRに興味のある方との交流の場を作っています。

2018年6月10日~15日に国際交流基金北京日本文化センター主催で行われた上海での視察の様子を、同視察の参加者や同時期に上海を訪れていたゲストを交えてコーディネーター宮武が紹介しました。

世界のアーティスト・イン・レジデンスから|上海編
日程:2018年7月24日(火) 
時間:19:00~21:00
会場:純喫茶 若松
トークゲスト:
石神夏希(劇作家 / The CAVE 共同創立者・共同ディレクター / NPO 法人 場所と物語 理事長)
平野春菜(京都芸術センター アートコーディネーター)
藤原ちから(アーティスト / 批評家)*ビデオチャットでの参加
住吉山実里(アーティスト / ダンサー)*ビデオチャットでの参加

発表者:宮武亜季(居間 theater / PARADISE AIRコーディネーター)
※2018年当時の内容です。最新情報はご自身でご確認ください。

アーティストが上海に行くにあたって

言語:英語がすごく得意というわけではない。
通貨:人民元、日本のクレジットカードも使える。物価は少し高いくらい(2018年現在)。アリペイなどアプリ決済が盛ん。
食事:中華の中でも上海料理、いろいろある。
Wi-Fi環境:公共空間に一応ある、つながらないこと多く便利ではない。Wi-Fi利用登録のために現地電話番号が必要。
◉使用できないオンラインツール:Google、SNS(Twitter・Facebook等)、Dropboxは使えない。VPNを経由すると使える、こともある。香港製のSIMカードを使うと良い。PCもVPN契約をしておくと良い。
WeChat(微信):中国圏のLINE。ウェブサイト・支払い・SNS・荷物集荷・デリバリー等々を兼ねていて、みんな使っている。
名刺代わりで、イベント終わりには必ずWeChatアカウントの交換タイムがある。しかしすべての記録・内容が中国政府に流れてしまう、香港の人は使わないで済んでいたが、最近は使う必要が増えてきた。
※イベント開催情報等、すべての情報がWeChatで共有されているので、海外からだとウェブサイトに明記されていないことも多い。
公共交通:安い交通手段、バスにどうやって乗るか、上海公共交通カード(上海公共交通卡)の使い方など、必要な人は調べたほうが良い。現地でその場で、は難しいことも。

劇場:演劇は検閲の対象。中国の人的には劇場=国立劇場で、小劇場は認知度が低い(もしくはない?)。自由な表現がしづらく、観客ファーストな状況ではないため劇場は傲慢、と言われることも。
一方、中国の伝統的な京劇などは盛ん。
パフォーマンスやダンスについてはセリフがない分検閲がゆるく、もう少し自由。劇場外(インディペンデントなスペースでおこなう等)や、劇場内でも公式チャネルでチケットを販売せず開催するパフォーマンスについては審査を受けずに済ませることもある。
美術館:ここ数年、ディベロッパーの節税対策として建てられる事が増えている。(一般向けの美術館を作ると税金が免除されるらしい)
美術館の教育普及部(not美術部門)がレクチャーやパフォーマンスなどを運営している。しかし、教育普及部の担当者は入れ替わりが激しい、議論やプロジェクトを継続するのが難しい・・

公共空間:公園にいる人達はパフォーマティブ&オープンマインド
対検閲、アーティストの態度
<藤原さんコメント>
北京と比べると、上海では中央から遠いこともあり、自由度も高く、ある程度は潜り抜けやすいと感じる。それでも窮屈と感じる人は海外に出てしまうのだと思うが。
<石神さんコメント>
劇場の外で上演されるパフォーマンスやコミュニティアート、演劇なのか何なのか特定し難いアートプロジェクトなどは既存の規制の枠内に当てはめづらいからこそ、期待感・余白感がある。だからこそ呼ばれたのかもしれない。
石神さんの上海滞在日記はこちら:

上海のAIR

China Residencies/中国美术交流:中国・香港エリアのAIRプラットフォーム
http://www.chinaresidencies.com/
数は少ないが、まとまった情報が得られる。中国で滞在制作をしたいアーティストは見るべし。(China Residenciesディレクター談:載せられるクオリティの施設だけ掲載。お金目的なAIRははじいてます。)

◉McaM/上海明当代美术馆
http://www.mcam.io/
パフォーマンスを含む作品の展示専門美術館。アーティスト・イン・レジデンスも行なっている。

◉Shanghai Xintiandi/上海新天地
http://www.shanghaixintiandi.com/p/sites/index.html
ここで開催された演劇祭「新天地フェスティバル」のシンポジウムに宮武が登壇。「新天地」という街区は香港資本のディベロッパーが開発した商業エリアで、演劇祭の主催も務めている。

上海近郊のAIR

ここからは京都芸術センター・平野さんにマイクを渡し、6月に上海近郊で行われた交流プログラムの体験を紹介します。

<平野さん>
京都芸術センター(元・明倫小学校の校舎をリノベ活用している施設。アーティストの活動支援、芸術文化の発信、交流をおこなう)から派遣され、2018/6/18〜25に行われたEast Asia Residency Knowledge Exchangeに参加。上海近郊のAIRであるUntitled Spaceを会場に、東アジアのAIR運営者とともに視察・交流をおこなった。

Untitled Space/無题空间:AIR&オルタナティブスペース http://theuntitled.cn
上海から50キロ、小さな水辺の街で周辺は空き倉庫がたくさん。
元々武器工場の倉庫をリノベし、アーティストが設立した場所で、ふたつの展示スペースと宿泊棟には6スタジオなど、滞在制作のための設備が整っている。

公共交通なし、バスのみ。滞在アーティストは空港からタクシーでやってくる。地図&案内サウンドファイルをWeChatで共有している。
小さな田舎町で滞在制作=夜遅くまでやってない街なので、制作には集中できる。
ディレクターひとりで切り盛りしている。スタッフの入れ替わりは激しい。
政府から土地建物を借りている状態で運営、郊外になると政府よりも地域のディベロッパーのほうが権力あったりする。年内にも新しい土地への移転話が・・(編注:2020年3月現在、移転して活動しています!

East Asia Residency Knowledge Exchange
http://www.chinaresidencies.com/news/186
東アジアのAIR運営者が集い交流するためのプログラム。2016年より開催されている。参加者にはこれからAIRはじめたい、準備中、な人が多く来ていた。
中国からはVPNを使いまくって、検閲を抜けた先で日本の情報を見てるよ、という声を聞いた。

<質問タイム>
・今後の対中国のネットワーキングはどうなっていく?
宮武:日本の感覚で、上海ですぐにでもパフォーミングアートでなにかできるか、と言われると難しいと感じる。
上海で日本のアーティストが上演し、日本の作品を紹介する意義はきっとあると思う。McaMのディレクションのもとで、キュレータの派遣などできることはありそう。

藤原:中国は広大で、一人で何かやるには大変な広さ。現地に行って、違う価値観ややり方の中で、現地の人たちと協働しながら創作活動を行うのは簡単ではない。自分自身、上海の美術館のゲストキュレーター的なポジションを務めたこともあるが、今はどちらかというとアーティストとして動きたいと思っており、中国の様々な人や場所とのネットワークづくりにはあまり注力できないと感じている。アーティストだけでなく、キュレーターやコーディネーターの人たちも中国に行って直接情報を得ていくことで、あちらでやれる別の展開が見えてくるかもしれない。
日本人が抱く中国のイメージには、依然として偏見が大いにあると思う。そして実際にあちらに行ったとしても、見たことや聞いたことを過不足なく他の人に伝えるのは簡単ではない。その点、平野さんの報告は率直でフェアであると感じた。

日本の演劇のクオリティはとても高く、観客もそういったクオリティを基準にした鑑賞の仕方に慣れてしまっている。また海外の参照先としてもやはり依然としてヨーロッパが強いと思う。しかし東南アジアや中国で活動していくとなると、自分たちが持っている価値観や常識をいったん括弧に入れ、絶対的なものではないと認識しないかぎり、そこでの体験を咀嚼するのは難しい気がする。例えば日本のビールに慣れていると、東南アジアや中国のビールの旨味があまり感じられないかもしれないが、現地に行ってその気候条件や環境の中で飲んでいるとだんだん慣れていく、ということもあるのではないか。

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