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新しくなったMIT Museumが面白かった話

2022年10月に新しくキャンパス内でリニューアルオープンしたMIT Museumに行ってきました。元々は大学のキャンパスから少し離れたKendallとCentral Squareの間にあったのですが、私が入学してからずっと移転工事をしていたので、博士学生生活2年目にして初訪問です。今日は午前中のラボミーティングの研究発表で疲弊してそのまま電車で帰ろうとしていたのですが、ちょうどキャンパスの最寄りであるKendall駅の入口の隣にあったのでふらっと立ち寄ることにしました。

営業再開当日(9月30日)はプライベートイベントが開催されていましたが、招待されていない私はただエントランスの写真を撮影してインスタのストーリーに上げることしかできませんでした…(当然)

一般の方の入場料は$18もするボストン価格ですが、MITの学生は学生証を見せるだけで無料で入場できます。サンキュー&ラッキーであります。

留学している日本人がやりがちな行動「トイレの鏡で自撮り」
(ボストンで綺麗なトイレは珍しいのでついやってしまいました)

大きな荷物は無料のロッカーに預けることができます。受付を済ませたら、東工大のどこかで見たことがあるような階段で2階に上がります。

階段と椅子が併設されているシアタースタイルです。1階に大きなスクリーンがあります。

階段を登った先にある最初の展示はこちらです。

スケスケだぜ

Essential MIT

上の写真に写っている文章を拡大すると「Essentialとは何か?」ということについてMITが自分語りをしている様子がわかります。正確な文章を知りたい人はぜひ現地に行ってご自身の目で確認いただければと思いますが、ここでは主に「イノベーションと共同研究によって実現したMITの研究者によるかっこいい研究成果」が展示されています。以下、その一部をちょこっとだけ紹介しますが、ネタバレが嫌な方は写真3枚分をマウスで思いっきり高速スクロールスキップしてください。

1. 重力波の展示

LIGO Lab(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)という研究機関をご存知でしょうか?アインシュタインの一般相対性理論によって予想された「重力波」の初観測に成功し、2017年にノーベル物理学賞を受賞した研究チームが活動していた研究所です。LIGOはMITとCaltech(カリフォルニア工科大学)という二つの工科大学が力を合わせて設立した研究所になります。この二つの工科大学はプロ野球で言うところの巨人と阪神くらいの関係なので、LIGOはすごい研究所なのです、全く知らんけど。

ブラックホールの衝突の音が聴けちゃいます!

ここの展示で特に印象的だったのは、「13億光年離れた場所で衝突した2つのブラックホールから放出された重力波のシグナルを私たち人間の耳に聞こえる可聴音域に変換した音」が聴けるブースです。要するに、重力波の「音」が聴けちゃいます。私の専門である地震学でも、地震計に記録された地震動のシグナルを可聴音域に変換して実際に聞いてみるという試みが最近よく実施されています(例えば、ここ(アメリカ地質調査所のHP)で聞けます)。

2. スルスル落ちるケチャップ(の瓶)

在宅勤務のお昼休みに急いでケチャップライスを作る時、残りが少ないケチャップを冷蔵庫から取り出して「あ、ケチャップが全然出てこない!このままではライスが焦げてしまう!」と思った経験はみなさんよくあることだと思います(少なくとも私はよくあります)。そんな時に役立つのがこの素材のケースに入ったケチャップです。

ここでは普通のケースに入ったケチャップと、中身のケチャップがめちゃめちゃ滑る特殊な素材でできたケースに入ったケチャップを実際にひっくり返して比較することができます。底に溜まったケチャップがどれくらい高速でスルスル滑ってくれるかどうかはぜひ実際に足を運んでチェックしてみてください。

3. MITの研究者によるメッセージパネル

ここに展示されている展示物は全てMITの研究者(とその共同研究者)によって開発されたものです。展示の横には開発者もしくはその関係者のメッセージが書かれていることが多く、博士論文の研究でコケまくっている現役大学院生としては偉大な先輩研究者からのありがたいお言葉をいただけるので、展示を見た後に「さて、研究室に戻ってもう一仕事頑張ろう!」と思えるような場所になっています。

私の所属する地球大気惑星科学科の教授のありがたいお言葉です。

ちなみに今日の私は疲れていたのでそのまま家に帰りました、ごめんなさい。

さて、ここまでが最初の展示ブースになります。この展示を見て私は素直に「MITの技術開発は素晴らしい!」と思いました。展示の製作者の意図もおそらく同じだと思います。しかし、単なる研究成果の自慢で終わらないのがMIT Museumの面白いところです。続きは次回で、といいたいところですが、そうするとズボラな私は更新をサボって忘れてしまうのでこのまま続きを書いていきます。

Gene Cultures

さて、MITの技術開発がいかに素晴らしいものであるか(みなさんで要検証)を実感した私は、次の「Gene Cultures(分野としては遺伝子工学)」の展示に足を踏み入れます。実はこの展示ブース、私としてはかなり衝撃的なエリアだったので、ほとんど写真を撮影できていません。スマホのカメラロールにかろうじて残っていた2枚の写真を解説していきます。また展示のネタバレを含むので、嫌な方はここから写真2枚ほどすっ飛ばしてください。

1. これが噂の「クリスパー・キャスナイン」か!

「クリスパー・キャスナイン(CRISPR-Cas9)」というポケモンの技みたいな名前を耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか?2020年のノーベル化学賞を受賞したのがこの遺伝子操作技術です。ざっと経歴を調べたところ、この技術の開発者である2人はMITの卒業生でも現役のMITの教授でもないようです。つまり、このGene Culturesの展示エリアではMITに関係なく遺伝子工学に関する技術の紹介およびその結果が展示されています。なぜ、遺伝子工学だけがこの2階のフロアを半分独占しているのでしょうか?

CRISPR-Cas9のわかりやすい解説。地球物理学者(私)でもわかる。

2. ピンクチキンプロジェクト

注意:遺伝子工学に関する倫理的な問題を扱っているセクションになります。苦手な方はスキップしてください。
「Gene Culture」の展示ブースの最初に対面するのがこの真っピンクな鶏です。遺伝子操作をされたこのピンクチキンは骨や卵の殻までピンク色にされています。一体何のために?どうしてピンクにされているの?その答えを次の写真から推測してみてください。

ヒントは真ん中のボーリングコアです

私たちが普段摂取しているチキン、食べた後には骨が残ります。その骨ですが、Pink Chicken Projectのサイトによると世界で年間600億羽のチキンの骨が投棄されているそうです。この骨の投棄が続いた場合、何が起こるでしょうか?

ここで地質学的な情報の補足をしておくと、地球上で生じたあらゆる活動(火山の噴火や津波の発生などの自然現象だけでなく、産業革命後の大気中の二酸化炭素濃度の上昇など人為的な活動も含みます)の証拠は、基本的に地層として地表に堆積し記録されていきます。つまり、地層というのは地球の表層で生じたあらゆる自然的・人為的な活動の記録になるのです。

すなわち、チキンの骨にCRISPRの技術を使ってピンク色をつけて、その骨を廃棄し続けることで、最終的に我々人間が投棄し続けたチキンの骨がピンク色の地層となり、未来の地球を生きる生物(あるいは文明人)に対するメッセージを残すことに繋がります。これがピンクチキンプロジェクトの趣旨です。

みなさんはこのプロジェクトに賛成でしょうか?それとも反対でしょうか?プロジェクトに取り組んでいる人々を非難するつもりは全くありませんし、様々な立場の人の意見をお聞きして議論したいと思っていますが、強いて個人的な見解を述べるとすれば、私は「遺伝子工学を使って鶏をピンク色にしてしまうこと」に関しては反対です。なぜなら、人間が地球上で繁栄している事実は、わざわざ遺伝子操作をして鶏をピンク色にしなくても、すでに投棄され続けている他の廃棄物(例えばプラスチックなど)によって示準化石として地層に残るはずだからです。ただし、このプロジェクトは環境問題的な観点のみならず、アメリカに深く根付いている人種差別などの不平等な社会構造に対するアンチテーゼの意味も含んでいるので、プロジェクトの実行に関しては様々な立場の人を巻き込みながら継続的に議論していく必要があると思います。

人間が開発した技術を利用する際に、必ず問題になるのが「人間以外の生物に対する倫理観」です。これがGene Cultureの展示で製作者が伝えたかったメッセージだと私は解釈しました。私たちが技術開発をしていく中で、どこまで自分勝手になっていいのか、あるいはどこまで人間以外の立場になって考えるべきなのか、それを意識しながら研究を進めるべきであるという大学からのお言葉だったような印象です。

おわりに

今回の記事ではMIT Museumの2階の展示を主に紹介してきました。本当は3階まであります。おそらく各展示のキーワードとしては、
Essential MIT:「科学」「理学」「基礎研究」
Gene Cultures:「科学技術倫理」
それ以外(適当):「科学技術」
という流れだったので、(主にMITの関係者に対して)「科学と技術のあり方について考えてみましょう」というコンセプトだったように思います。大学機関には科学館や博物館が併設されていることが多く、私も度々各地の大学の博物館を訪問しています。MITはその中でも科学と技術(と芸術)を重んじている印象が強く残りました。これは大学のモットーである「mens et manus(mind and hand)」を反映している気がします。つまり、「頭だけ使っていないで手も動かせ」ということです。今日は頭だけ使って終わってしまったので、明日からまた地震波の解析と三角州モデリングの修正をがんばるます…

帰りに売店で購入した「熱い飲み物を入れると夜が明ける地球」のマグカップです。最後の一個でした。夜明けの方向が東から西ではなく南から北なのが惜しい。






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