【創作】15分の映像で世界は変わるけど私たちの日常は変わらない
◯メインキャラクター
落合(通称オッチ・女):大卒1年目。真面目だけど仕事ができない、失敗だらけのアシスタント。
武藤(通称むーちゃん・女):23歳。バイト先のリラクゼーション店で社長に引き抜かれる。1年経過してようやく社員になった。
葛城(カズラキ・39・男):ディレクター。テレビ局からネットメディアに転職して10年目。強面で熱血指導だが、優しい一面も。本当は映画監督として生きていきたい。
◯あらすじ
KTVの生配信中、落合が大物タレント・ユメに熱いお茶をかけてしまった。
これで今月5回目。ユメは「もうKTVに出ない!」とカンカンに怒って帰ってしまった。さすがにプロデューサーらもフォローできず、落合を10月から関連会社に移そうと社内会議の議題にあげる。
葛城、武藤、落合は異動を阻止しようと「ある計画」を企てる。
S1/スタッフルームの片隅
午後3時。配信終了後の反省会も終わり、他30人は各自仕事に向かうが、落合はイスに座って俯いたまま動かない。葛城と武藤は心配して近寄った。
武藤「オッチ… オッチのせいじゃないから」
葛城「まあ…そう落ち込むなよ 落合。俺の方こそ 1分1秒も早く ここを出たいんだ!だから 君たちには続けてもらわないと…」
落合「(膝の部分を一点に見つめて)…」
葛城「…困るんだ」
落合「……誰がですか?」
葛城「(恥ずかし気に)KTVに関わっている 全員だよ」
武藤「…だって。よかったね オッチ」
落合はTシャツの袖で涙を拭う。見上げて二人の顔を見る。
落合「…ん ありがとう 葛城さん むーちゃん」
S2/会社から赤羽橋駅までの道
金曜の21時。3人は同じ駅周辺に住んでいるが、この日初めて一緒に帰ることに。
武藤「ところで なんで葛城さんは早くここを出たんですか?KTVの中でいちばん馴染んでいるのに」
葛城は俯き加減で、カッコつけるようにジーンズのポケットに片手を突っ込んで。
葛城「それは…監督業務に集中したいんだ ほんとは」
武藤「えぇー!葛城さん 初耳〜!」
葛城「(人差し指を唇に当てて)ちょっ!武藤 声大きいから!」
落合「私 葛城さんたちと映画つくりたいです!参加させてください!」
道の真ん中でお辞儀をする落合に、葛城と武藤は目を丸くして止まる。
葛城「よしっ!じゃあ あさって12時に豊洲のCスタジオに集合なっ!あ!そうだ!武藤も興味あったら来てもいいぞ」
武藤「何よ そのついでみたいな言い方ー!」
S3/KTV内
午後4時、控え室前の廊下。
別番組で打ち合わせのためユメがK T Vに。不満そうな顔をしながら自分のスマートフォンを取り出してプロデューサーJに見せた。その画面に「落合の失態」が番組のスピンオフ企画となっていた。その動画はなんと1000万回も再生され、10代の間で広まりつつあるという。
K T Vは事業悪化のため今年度で打ち切り予定だったが、プロデューサーJは社内会議にその動画や企画を引き合いに出して番組を救えるんじゃないかと考える。
月曜の午後6時、会議が終了して、Jがスタッフルームに入ってくる。
葛城「あっ Jさん どうでしたか?動画の件」
J「ああ なんとか役員たちを丸め込めたよ。意外とアイツらも面白がっちゃってさ」
葛城「(胸をなで下ろしながら)そうですか よかったー!じゃあ 落合はどうなるんですか?」
J「んー ウチの番組のアシスタントだよ。まだ正式に決まってないけど」
「よっしゃー」と叫びながら葛城はJの隣でガッツポーズする
J「ところで 動画ってお前がつくったのか?」
葛城「いや あれは…落合の発案です。番組の足を引っ張ってて申し訳ないから自分のことをネタにできないかって。」
J「そうなのか」
葛城「はい…。その案を言う前に 落合が『映画をつくりたい』って言ったから豊洲に呼んだんです。でも途中参加じゃ映画は難しいから その日 俺が番組と別アングルで撮り溜めてた映像を持ってたんでそれをつなぎ合わせたら意外とバズっちゃって」
J「ユメちゃん すげー怒ってたぞ。どう代償とるんだ?」
葛城「すいません…今から控え室に…」
J「もう帰った。それより 今度ユメちゃんが落合に会いたいって。ドラマを撮ってほしいって事務所の人たちと来るってさ」
葛城「え…それ ほんと…?」
葛城は立ち止まり、Jは左手で頭をかきながら再び廊下へ歩いていく。
S4/(回想)豊洲のCスタジオ
武藤「ねえ オッチ ユメちゃんをぎゃふんと言わせちゃおうよ。私 アイツのことキライなんだ わがままだから」
落合「むーちゃん あんまりやるとユメちゃん かわいそう…」
武藤「もう〜 オッチはお人好しなんだから〜」
夕暮れもとっくに過ぎて辺りは暗くなっていた。海越しにみえる街は灯りがぽつりぽつりと光っている。
6時間超、落合と武藤のふたりはスタジオに籠り動画の編集作業に没頭していた。たかだか15分間の映像にそんなに時間と労力をかけて…と葛城は遠目で見ていた。
そして日付は変わり、全世界にその映像は流れた。
しかし落合と武藤の日常は変わらない。
※この物語はフィクションです。