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開幕前夜

ユニフォームに背番号をつけるのは
大抵 開幕前夜です
いよいよ明日と 高まる想いを
一針ずつ縫い付けていくのです

後ろの襟から9センチ
袖の縫い目まで左右は11センチずつ
慎重に測ってマチ針をうち
いつの間にか広くなった
その背中に重ねてみてから
ようやく針は動き出します

選ぶ糸はいつも透明
始めからそこにあったかのようにして
ユニフォームの背中へと
背番号を写していくのです

一針目の願い事
どうか怪我をしませんように
二針目の願い事
精一杯の力が出せますように

透明な糸が光る針に導かれ
スタートしたホームから
三角をまわり
再びホームにたどり着くとき

 その背に託されたチームの意志を
 あなたがきちんと果たせますよう

最後に一回だけ想うのです
糸を切り 
背番号がその背のものとなる
その時に

あなたが彼の地に立つときは
祈るだけしかできない母の 
それが 
あなたへ望む想いです



センバツ開幕日だったはずの日に…。

「開幕前夜」は、もう10年も前に書いた詩です。
思う存分、グラウンドを駆け回ることのできる日が、早くやってきますように…。

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