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痺れるような読書体験を|『月ぬ走いや、馬ぬ走い』豊永浩平|



 鮮やかなレモンイエローに細胞が噴き出したような字体の美しい表紙に心奪われてはいたものの、Kindle本を購入した。

 『月ぬ走いや、馬ぬ走い』は2024年群像新人文学賞の受賞作品だ。本の帯に書いてある短い内容や受賞の際の著者へのインタビューを読んだので、沖縄の歴史が書かれている小説だということがわかった。

※この記事にはプロモーションを含みます。


 14編の「沖縄の夏」の話、時の流れが交錯し、時代を遡り、また戻り、繰り返し知らない世界を覗く。そこにはいつも亜熱帯の湿気と美しい海と溢れる暴力があった。銃撃、轟音、バイク、悲鳴、粛清、騒音、短刀、監禁、暴行、逃亡。小さな男の子は女の子に恋心を、祖母は孫に魂込め(マブイグミ)を、亡き初恋の男と語る夜、プール掃除、アイスクリーム、肝試し、友のためにルーツをラップする少年、少女の愛は夏祭りの綿菓子のように輝いて溶けていく。
「月ぬ走いや、馬ぬ走い」チチヌハイヤ、ウンマヌハイ。

 暴力は分かりやすく何かを奪い、破壊し、痛みを植え付けていく一過性のものだけではない。人の内部の湿気た部分を住処に、カビのように細部にまで浸食し、清潔な呼吸を遮り、あたかもその状態が「普通」であるかのように永遠にはびこる。カビのせいで苦しくなって壊れてしまうもの、自分がカビを吸っていることに気付かないものもいる。

 著者の豊永浩平さんは沖縄で生まれ育った方だそうだ。インタビューでは「戦争を経験していない自分が沖縄について書いていいものだろうか」と悩んだことが書かれていた。地元生まれで同年代の若者の、戦争体験者への距離感などもお話してくださっていた。その話を聞くと、歴史を伝え、繋ぐということはどういうことなのかと考える。
 人は恐怖の中でしか暴力の存在を認められないのだろうか。私は、豊永さんがこういう形の、ご自身でも仰っていたが「音楽のような」紡ぎ方をした小説を書いてくれることは、歴史を伝えることにおいて非常に重要なことだと思っている。一般的な歴史上の事実を並べているだけではなく、豊永さん自身の世界観を小説という形でしっかりと届けてくれている。世界にはあらゆる形の「語り部」がもっと必要なのだと信じている。

 「感情が溢れすぎないように」気を付けて書いた部分もある、と述べられていたことも印象的だ。ひとつの常識、一か所からの角度だけではなく、各構造のそれぞれの外枠を見つけ、様々な時代、角度からものごとを比較し、観察することがいかに大切なことか。いちばん小さな視点と大きな外枠を比較し、そこから学ぶことを忘れた時に、突然主語は大きくなり、「正しい暴力」が振りかざされ、感動と熱気と笑い声の中人は多数派へと進んで歩み寄っていくのだろう。

 丁寧に、時に冷静にと努めて書かれているその上質な文体から、作者の熱い21年間の想いが溢れている。それぞれの感じ方があっていいと思うが、とにかくたくさんの人にこの本を身体で受け止めてほしいと思った。知識ではなく、痺れるような「読書体験」ができる本に出会えることは幸せなことだから。

特に夏に読んでほしい一冊。

kindleで読んでみて

 普段から本は家で読むことが多いし、正直紙の方が読みやすいと思っています。自分が全体のどこまで進んでいるか分かりやすいし、忘れた部分はまたパラパラとページをめくったりと簡単に戻れるところも好きなので。

 3年程前に、移動中や待ち時間に本を読んでみたいと思うことがあり、kindle papeprwhiteを購入してみたのですが、思っていたよりずっと文字が綺麗で反射もなく集中できることに驚きました。目にも優しいので日常のふと待ち時間がある時に、自分の好きな文章を読めるのが嬉しい。今回の豊永さんの小説もその文字の美しさからすっと集中して物語に入ることができました。
 外に出てなにかしんどいな、と感じることがあっても、エッセイなど軽く読めるものをいつも持ち歩いていると気分転換になっておすすめです。

防水なのでお風呂派の方にはもちろん。









 

 

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