CPM 日常コミュニケーション遂行度測定 (4)ー 事例2
事例2は,運動低下性構音障害がある70歳代の男性です.
言語聴覚士(ST)が評定した会話明瞭度は5段階中のレベル2(時々分からない言葉がある)でした.
次の表は,会話相手(妻)と,ご本人による会話了解度,満足度の評定結果です.
会話了解度は,本人の評定値が会話相手に比べて若干低いものの,ほぼ一致していました.
CPMの第3段階の面談時に,当事者が挙げた事柄も共通しており,
「大きな声で,近くで,相手の顔を見て会話するとよく伝わる」(声量,距離,相手の顔がみえる位置関係),
「会話相手が家事など別のことをしているときに話しかけると伝わりにくい」(相手の準備状況)とのことでした.
両者の了解を得て,互いの評定結果を知らせると,ご本人から「思ったよりも,ことばが伝わっているらしい」という発言が聞かれました.
CPMを通して,当事者間で日常のことばの伝わり具合を共有することで,安心感,自信につながったと考えられました.
そして.2週間後の来院時に,CPMの再評定を依頼したところ,上表のように会話了解度の向上がみられました.
特に,会話相手による会話了解度(低)が5→8と大きく向上していました.会話相手である妻から,「最近,本人が話し方を工夫しているのがよく分かる」という発言がありました.
私たちは,2以上の評定値の変化は特に明確な変化と捉えており,この了解度(低)の3段階の向上は大きな意味があるのではないかと考えています.
満足度においても,本人評定8→9,会話相手7→9(1回目→2回目)と変化がみられました.
CPMは,「痛み」などど同様に,当事者が日常コミュニケーションをどう捉えているかを主観的に評定する方法ですが,シンプルな数値化を入り口として,当事者が主体的に考え,行動する契機となることが示唆されます.
本事例においても,コミュニケーション上の方策の共有が,ご本人による方策の実践の促進および当事者間の相互理解の向上につながった可能性がうかがわれます.
構音障害のある人に,CPMを適用した結果は下記でも紹介しています.
小澤由嗣,中村 文:日常コミュニケーション遂行度測定(CPM)の開発.ディサ―スリア臨床研究 9: 16-21, 2019
中村 文,舩木 司,長谷川 純,小澤由嗣:dysarthriaのある人を対象とした日常コミュニケーション遂行度測定の信頼性.言語聴覚研究 18: 295-305, 2021