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レビュー:鬼士道【ジャンプルーキ―】

鬼士道とう漫画を何となく読んでみたらこれがまた凄く面白い。凄く面白いんだけど、僕はこの面白さをうまく言語化することができるか不安だ。不安だけど面白いから多くの人に知ってもらいたい。

そして、あわよくば! ジャンプ+で連載してほしいという願いを込めてレビューを書いていく。なお、極力ネタバレを避けるが、本作を紹介するにあたって一話だけネタバレを許してほしい。

許せなければ読め。今すぐに。


鬼士道とはいったいなんなのか。

漫画だ。いや、漫画なのは間違いないんだが、だいぶ癖のある漫画だ。
実際に絵を見てほしい。

本作のメインキャラ。左からトニー、マックス、ジェフ
少年漫画の主人公が冒頭からパチンコを打つな。

癖がすごい。立体的でリアル寄りの絵だ。仮に僕が友達からオススメされても読むのはためらってしまうかもしれない。良くも悪くも、絵にそれだけのインパクトがある。
それとキャラデザから漂う圧倒的米国感。なのにコマワリやセリフ回しが完全にジャパニーズ漫画のソレだから違和感が凄い。
でも会話は面白いし、コマワリもスムーズで読みやすく、非の打ちどころもない。

俺はこの漫画を読み始めた時、一瞬だけ不安になると同時に、大きな期待を抱いた。そして、その期待は一話を読み終わった後も膨れ続けた。

もしかしたら、この漫画を描いた作者は天才なのかもしれない、と……

鬼士道の世界観

鬼士道は世界観も独特だ。
誤解を恐れずに言えば銀魂っぽいな、と最初は思った(違う作品で例える無礼を許してほしい。今回は分かりやすさ優先で)。
俺が言わんとしていることは、読んでもらえれば何となくわかると思う。
ただし、銀魂にデッドソースを山盛り混ぜ込んだあとに、ジックリ煮詰めた劇薬みたいな世界観である。

もちろん、雰囲気が銀魂というだけで細部の設定はまったく異なる。
以下で梗概を引用しよう。

仏の支配下にあるこの世界で妖怪は忌み嫌われていた。マックスはそんな世界で唯一の拠り所だった妖怪の友達トニーと人間の友達ジェフと共に暮らしていた。ある日、彼らは街角で警官隊に襲われ、妖怪の友達は理不尽な暴力に苦しむ。マックスは助けようとするが恐怖に足がすくんで動けずにいた…。

ジャンプルーキ―!より引用


どうだろうか? 難しそうだと思っただろうか。
安心してほしい。作中で小難しい世界観の説明は長々と続かない。フィーリングで読んでOKだ。妖怪が差別されている世界観なんだなぁぐらいの認識でとりあえず読み進めてくれ。

とにもかくにも、言葉だけだとイマイチ伝わり辛いと思うので、気になった方はすぐに読みに行ってほしい。そして、まだ読む気にならない人は、俺の紹介文の続きを読んでほしい。

次は主人公の魅力についてだ。

マジでくたびれている主人公

俺は本作の主人公であるマックスに、どうしようもなく惹かれてしまう。
なぜか。
それは、マックスがどうしようもなくどうしようもない、けれど共感してしまう主人公だからだ。

マックスはフリーターだ。どのバイトも長く続かない。ルックスは悪くないが、特別身なりに気を使ってる風でもなく、お金はないけど付き合いでパチンコには行く。性格も暗いし、積極性にも欠けるときた。
これだけ聞くと、まじで冴えない奴って感じだ。

殴られる友人から目を逸らすマックス。諦念が伝わってくる。

マックスのキャラクターは、妙にリアルだ。いや、マックスだけではない。後述するトニーも含めてそうなのだ。すっとんきょうな世界観にもかかわらず、鬼士道のキャラクター造形のリアリティラインは、非常に高く設定してある。

鬼士道を読めばすぐに気づくだろう。現代社会を生きる俺たちは知っている。
マックスみたいな奴はごまんといる。マックスは名前のついていない弱者なのだ。しかし困ったことに、弱者だが少数派でない。マイノリティにはなれない。『自分はただ一人の弱者ではない』『この辛さは自分だけのものではない』『これが普通なのだ』という残酷さは、現代社会に通ずるものがある。

マックスはいじめを止めることができなかった過去を持っていた。

いじめの傍観者になってしまった過去

別に、マックス自身が虐められていたわけでもないのだ。
しかし、自分がいじめられてなかったのは、自分より立場が悪い弱者がいたからだということを、マックスは幼少期の経験から痛感していた。

この過去をきっかけに変わればよかったかもしれない。が、人はそう簡単には変わらないものだ。マックスも例にもれず変わることができない。意見を言えないまま、主体性を持てないまま、マックスは大人になってしまった。

そして、その主体性の無さが最悪の結果を呼ぶ。

一話中盤、運命の瞬間がくる。マックスの体はヒロアカの緑谷出久のように勝手には動かない。自分がヒーローでないことは、自分が一番よく知っているのだ。後悔は先に立たない、行動しなければ後悔することは目に見えているのに、それでも動けない。

たとえ、涙を流すほど辛いことを後悔するのが、すべてが終わってしまったあとなのだと知っていたとしても。

何かを悟っているマックス。ここからの一連の流れが、なぜか泣けるし笑える。
ぜひこのシーンは本編で。

さて、次も僕の好きなキャラを紹介しよう。

どうしようもない奴だけどマジでいい奴なの

を、表現するのが抜群に上手い。その代表格がトニーだ。

左がトニー(妖怪)。「この世で一番面白いのはパチンコ」→そんなわけない

こいつ、マジでカスなんだけどマジでいい奴ではあるんだよ……みたいな、地元の中学で作った悪友みたいな、そんな雰囲気がトニーにはある。パチンコなど刹那的な生き方でしか快楽を得られない単純さも、どこか愛おしい。

日陰を選び、慎ましく生きているト二ーに、理不尽に降りかかってくるのが差別だ。そう、鬼士道の世界には妖怪差別がある。それも妙にリアルで嫌な感じのヤツ。以下はマックスの誕生日にケーキを買いに行くシーン。

すべての差別は『妖怪だから』という変えようのない事実に突き当たる。
笑っている。かわいい。

去り際にどうもー!とデカい声でお礼を言うト二ーの姿が涙を誘う。デカい声を出すことで哀しみを紛らわそうとしているのかもしれない。

いや……本当にコイツ、マジでいい奴ではあるんだよ。めちゃくちゃ友達思いだし……ただ、ニートでパチカスなだけで……

この世には、個人の力ではどうしようもないことがたくさんある。どうしようもないから、どうしようもないのだ。世の中の大きな流れに逆らうだけの強さが、彼らにはなかった。
無力で、しかし、その無力が普通なのだ。

鬼士道のキャラクターに心から同情し、共感し、応援したくなるのは、そんな【普通さ】があるからかもしれない。

シュールなギャグ

さて、息が詰まりそうな重い話ばかりしてきたが、この漫画を読んで気分が暗くなる人はあまり多くないと思う。
嘘つけ!と思うかもしれない。
嘘ではない。
なぜなら鬼士道は、全体的にうっすらふざけているからだ。
嘘つけ!と思うかもしれない。
嘘じゃねえって言ってんだろ。
展開的になんか暗くなりそうな雰囲気を感じても安心してほしい。
その瞬間に鬼士道はうっすらふざける。

鬼士道は、シュールなタイミングに、シュールな画角で、シュールなギャグをいきなりぶっこんでくるのである。以下をご覧いただきたい。

お前のお前の、じゃないよ。
働いてない奴をクビにできるわけないだろ

わかるだろうか。このシュールさが。
例えるなら、ハゲのオッサンが自らのハゲをネタにしているような。
「滅茶苦茶面白いんだけど、これ笑っていいの?」みたいな、不謹慎と笑いの狭間にある絶妙なラインを鬼士道は攻めてくるのだ。

とある事情で自殺しようとするマックスを止めるジェフ。なんでそうなるんだ。

自殺シーンでさえ笑いに変えてくる。正直言って、この時のマックスの心境を考えると笑えたモノではないのだが。

最後に

長々ととりとめのない内容を書き散らしてしまった。それだけの魅力がある作品なのだということが、読者の方に伝わってくれれば嬉しい。
この記事をきっかけに鬼士道を読んでくれれば、望外の喜びである。俺はジャンプ+で連載している鬼士道を読んでみたい。

さ、ここまで読んで読む気が起きない人。後生だから呼んでくれ。
鬼士道は確かに人を選ぶ。
冒頭でパチンコを打つ主人公、独特で魅力的な絵柄、異様で悲惨で残酷な世界観、辛すぎる展開、シュールすぎるギャグ。
この漫画は読者を振るい落とす数々の要素を持っている。
それは一見するとゲテモノのように見えるかもしれない。
でもちょっとチャレンジしてみてほしい。一話見て駄目ならそれでいい。
ただ、この漫画を読まずして評価するのはあまりにも勿体ない!

石を投げれば漫画にあたる、この漫画戦国時代に颯爽と現れたホープ。玉石混合のWeb漫画界で、ダイヤモンドのようにひときわ光輝く本作品に、いつかスポットライトがあたることを願ってやまない。


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