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尾崎将也の<全部入り>脚本講座  [5]ストーリーをどうやって作るか

(重複度3)※200円に値下げしました。


まずはお詫び

 前回から時間がたってしまったことをお詫びします。
 前回はセリフの初級編でした。「次回はセリフの上級編」と予告したのでそれを書こうとしていたのですが・・・これが実に難しいのです。自分がいつも仕事でセリフを書いているのに、いざ「いいセリフ、面白いセリフはどうやって書くのか?」「どうやって勉強するのか?」を考えると、「あれ?どうするんだっけ?」という感じで、よくわからないのです。
 前回書いた初級編は、いつも生徒の作品を読んで問題点を発見して指導していることなので、改めて考えるまでもなく書けることでした。しかしその上の「いいセリフ」「面白いセリフ」となると、僕自身がそれを極めたわけではありませんし、決まったゴールや答えがあるわけでもありません。
 またセリフは当然のことながら、人物から出てくるもので、キャラクター作りと大きく関わります。またストーリーの流れがあるからセリフが出て来るという面もあります。なのでキャラクターやストーリーと切り離してセリフだけを論じるというのも難しいことです。

 そこで、順番としてストーリーとキャラクターについて先に書いて行くことにしました。まず今回はストーリーについてです。


ストーリーは時間の中にある

 ストーリーについて考えるとき、まずは「[1]脚本とは何か、ドラマとは何か」の中で述べた「ドラマは時間の中に存在している」ということを思い出してください。(まだ読んでいない人は読んでください。この章は無料です)
 1時間ドラマなら1時間(テレビの1時間ドラマは正味45分くらい)、2時間ドラマなら2時間(同様に正味95分くらい)の中にストーリーが存在します。プロットや脚本が文字として存在していても、最終的にはストーリーは時間の中に流れる形でこの世に現れるものだということを改めて認識してください。
 ストーリーは出来事の連続です。時間の流れの中で色々な出来事があり、それを描写するシーン(場面)があり、それが連続することストーリーが形作られて行きます。

ストーリーであるもの、ストーリーでないもの

 ストーリーは出来事の連続だと書きましたが、出来事が連続すればそれがストーリーになるかというとそうではありません。初心者がストーリーを作ろうとするとき、まず直面する問題は、「出来事が時系列や因果関係に従って並んでおり、そこに何かの価値観を入れたもの」とストーリーの違いは何か?ということです。(ここで言う「価値観」とは、「お金より愛が大事」などのテーマ的なものです)

 例えば、

・会社に行く途中で気分が悪くなったので病院に行った。
・検査してもらったら病気が発見された。
・これからの治療について医者と話す。ちゃんと治療すれば問題ないとわかりホッとする。
・医者に礼を言い、病院を出る。
・健康には気をつけないといけないなあと思う。

 一応筋が通った出来事が並んでおり、「健康には気をつけよう」というテーマ的なものも入っています。しかしこれを読んで「面白いストーリーだ」とは思わないでしょう。単に出来事が並んでいるだけです。

 それに対して、

・会社に行く途中で気分が悪くなったので病院に行った。
・そこで会った医者はかつて喧嘩別れした恋人だった。
・検査の結果、病気が発見される。
・元恋人の医者は「私が直すから心配ない」と言う。主人公としても任せるしかない。
・しかしこの二人は、かつて別れたときの話になると、つい喧嘩になってしまう。

 これはまだストーリーの発端の部分ですが、ストーリーになって行きそうな感じがします。主人公と元恋人の医者との関係はこれからどうなるのか? 主人公の病気は直るのか? という要素がからみあい、続きを見てみようという気になりそうです。
 このようにストーリーになるにはとりあえず「これからどうなるのか」という要素と「人の気持ちや、人と人の関係に対する興味」という部分が必要な感じがします。
 しかし、過去の優れた映画やテレビドラマの中には、人間のキャラクターや人間同士の関わりを描くものの、ストーリーは淡々として「どうなるんだろう」という要素はあまりないものもあります。またサスペンスものやアクションものには「これからどうなるんだろう」という要素は強いものの人間の心理や人間関係はあまり描かないものもあります。これらの場合も作品としては十分面白い作品になり得ます。つまりこの二つの要素の両方が必ず必要ということでもなさそうです。
 ではストーリーがストーリーになるには、さらにそれが「面白い」と思えるものになるためには何が必要なのでしょうか。そのことをこれから考えて行きたいと思います。

観客が思うことと登場人物が思うことは別

 ストーリーの条件について述べる前に、認識して欲しい事があります。上にストーリーには「これからどうなるんだろう」という要素が必要と書きましたが、これは観客が思うことで、登場人物が思うこととは別だということです。

 例えば次のような流れがあるとします。

・事故を起こしてしまい、賠償のために多額の金が必要になる。
・金融機関で借りようとするが、断られる。
・親戚に借りようとするが、断られる。
・家を売るしかないかと思って悩む。

 これは当人にとっては大問題で、「これからどうなるんだろう」と当人は思っているでしょうが、観客にとっては悩んでいる様子を長々と見せられるだけで、ストーリーとしては面白くありません。主人公が悩む気持ちはわかるけど、それを延々と見せられても、観客は「どうでもいいよ」という感じになっていくのです。

 この例で主人公がどうしようと悩んでいるとき、例えば「埋蔵金を掘り出そうとしている男と出会い、仲間にならないかと誘われる。信用していいのかどうか迷いつつ、藁にもすがる気持ちで仲間に入る」となるとストーリーっぽくなります(あくまで一例です)。こうすると、この作品は「果たして埋蔵金は見つかるのか?」という、観客が「どうなるんだろう」と思う要素が入ってきます。

現実の「いいこと」とストーリーの「いいこと」は別

 もうひとつストーリーを作る前に認識すべきことは、現実の「いいこと」とストーリーの「いいこと」は別だということです。上記の例で主人公がお金に困ってるとき、急に親戚の遺産が入って問題が解決したら、主人公は「よかった」と思うでしょう。しかしそのこととストーリーが面白いかどうかは関係ありません。観客は「そんな偶然のラッキーで解決しても面白くないよ」と思います。
 初心者の中にはこの区別がつかず、単にいい人がいいことをしたり、いいことが起こったりしてハッピーエンドになるのがいいストーリーだと勘違いしている場合がありますので注意してください。

ストーリーに必要な要素

 まずはストーリーがストーリーになる条件は何か列挙してみます。
 以下に書くことは、ごく一般に言われていることで、僕が独自に編み出したようなことではありません。ただ、人や本によって微妙に解釈や言い方が違ったりということはあると思います。

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