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尾崎将也の<全部入り>脚本講座 [4] セリフについて(前編)(まずいセリフを書かないために)

(重複度2)

※初めての方は「前書き」も合わせてお読みください。

 前回の講座で取り上げた「ト書き」は脚本を書く上で大切な要素ではありますが、そんなに難しいものではありません。プロの脚本家が「ト書きが難しくて悩んでいる」と言うのを聞いたことがありません。もちろん初心者が最初の段階で戸惑うのは当然ですが、一度「ト書きはこういうもの」と理解してしまえば、その後はさほど悩むことはなくなるはずです。
 それに対して「セリフ」は難しいものです。プロの脚本家もいいセリフを書くためにいつも悩んだり苦心したりしています。

 セリフを学ぶことは二段階に分けて考えた方がいいと思います。
 「第一段階」は脚本を学び始めた初心者の段階でとりあえず理解しておくべき初歩の話、言い換えると「まずいセリフ、変なセリフを書かないにはどうすればいいか」ということです。これはト書きと同様に「とりあえずこれだけ理解すればOK」という段階です。
 「第二段階」はその上の段階、「人を面白がらせたり感動させたりするセリフを書くにはどうすればいいか」という段階です。セリフは難しいと書いたのは、この第二段階のことです。これは「もうこれでOK」というようなゴールがあるものではありません。

 まずは第一段階を確実にクリアすることが必要です。この章ではこの点について書きます。
 次回は第二段階に足を踏み入れたいと思います。


セリフの三つの機能

 セリフには次の三つの機能があります。
①事実を知らせる。
②人物の心理やキャラクターを表現する。
③ストーリーを進める。

 「いらっしゃいませ」や「おはよう」などの単なる挨拶でも、その人の立場や性格、今が朝か昼かなど、①や②の要素が何か含まれています。全てのセリフは三つの機能のうちどれかひとつ以上の機能を持っています。三つの機能を全て含んでいるセリフもあります。

太郎「許せない! 絶対仕返ししてやる!」

というセリフは、太郎が強い怒りを持っているという事実を知らせ、彼がカッとなりやすい性格であることを表現し、この後仕返しをするという次のストーリー展開を示しています。
 脚本を書くことに慣れれば、いちいち「このセリフはこの機能を持っている」などと意識したりしませんが、知っていた方がいい知識です。セリフに悩んだとき、ちょっと立ち止まって「このセリフが持っているのはどの機能かな」と考えてみると、「別の機能を足してみてはどうか」などと考えることができます。
 上の例で言えば「許せない!」だけなら人物の性格や感情を表していますが、そこに「仕返ししてやる!」を加えると次のストーリー展開を示すことになります。

 では上記の三つの機能について詳しく見ていきましょう。


事実を示すだけなら簡単?

 当然のことながらドラマは色々な事実を提示しながら進んで行きます。
「女房が口うるさくてねえ」と言えば、この人が結婚していること、奥さんが口うるさい人であること、どうやら奥さんの尻に敷かれているなどの事実が示されます。
 事実を提示するだけなら、そんなに難しくはなさそうです。ところが、事実を提示するセリフにとって大敵があります。
 それは「説明セリフ」になってしまうことです。以下、説明セリフの何がまずいのか、どうすれば解決するかを述べます。

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