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やっとこの家が、私の居場所になったかもしれないと思う

去年の12月に、引越しをした。

寝に帰るような一人暮らしをしていたので仕事の場所以外に
私の居場所が欲しくなったからだった。


社会人1年目までは死ぬほど働こう、死なないからさ、
と決めていた自分との勝手な期限を私は守った。(なんて思っている)


引越しはすこしだけ、面倒で、大変で、
もっと身軽に生きたい、と私に思わせた。

10ヶ月ほど経つので、最初は広すぎる駅に何度か迷っていた私も
もう、よそ見をしていたってちゃんと間違えずに最寄駅の電車に乗れる。


改札、大きなデパート、
野菜が並ぶ八百屋さんに
無期限休業に入ってしまった大好きなお豆腐屋さん、
まだ入ったことのない喫茶店の
風景にも見慣れてきた。



でも、それでもあいかわらず外にいる事の方が多くて、駅に向かう途中、
はしゃいでいる高校生の後ろ姿は眩しくて
やっぱりこの街を案内をできるまでにはもう少しかかる、と思ったりもした。


引っ越して来たばかりの日、
駅へ向かう途中、昼間の決まった時間帯と
駅からの帰り道の途中、夕方の時間
ある場所におばあちゃんが立っていることに気づいた。


最初は驚いて(ごめんなさい)
ちょっと挨拶を躊躇してしまうくらい。
それでも私が道路を通り過ぎるまでの間、目が合うと
ハッとしておばあちゃんはニコニコ笑ってくれていた。


初めて話をしたのは、春。
そろそろ暑くなるので少し心配になって
思わず声をかけた。
「こんにちは。暑くなりますね」
そうねって言いながら
やっぱりおばあちゃんはニコニコ笑っていた。


ある日、おばあちゃんのお友達らしき人と、おばあちゃんは話をしていた。
話している内容は、天気の話で
暑くなるから熱中症に気をつけてね
なんて手を握って会話をしている。
それから時々見かけたおばあちゃんは
日陰にいるようになっていた。


8月は朝でも、暑くて暑くて、
おばあちゃんはあまり外にいなかった。


ただ私が、夜遅くに帰っていただけかもしれないけれども。



今日はお昼過ぎに、家を出た。
台風が過ぎた秋晴れの空、風が強かった。


久しぶりにおばあちゃんを見た。

こんにちは、というより前に
風が強く吹く。


今日はお気に入りの
シルクのワンピースを着ていた。
ふわっとすごく綺麗に舞い上がってくれて
思わず立ち止まった。


「今日は風が強いわね」

おばあちゃんから私に
初めて話しかけてくれた。
そうですね、とちょっと嬉しくなって、見つめた。

やっぱりおばあちゃんは
ニコニコ笑っている。

今日は家に帰る時間が遅いから
きっと私が帰宅する頃にはおばあちゃんはもう家に帰っていると思う。



ここが自分の居場所だと思える時間を、
思っているよりも、一歩先に見つけた。

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