餃子の皮
「あとニラでしょ、合挽肉と、そうだ、うちは白菜入れる派なんだけど。どうしようか?」
「任せるよ。いつも通りに作って」
日曜の午後、スーパーに向かいながら歩く。 いい感じに小腹が空いてきて、これから昼ごはんが楽しみだ。
「なんでまた急に餃子なんか食べたいって言い出したのよ。この前作ってあげたじゃん」
「そうなんだけど、俺も家で作ったら君みたいに上手く作れなくて、んで教えてもらおうかなって。隠し味とか、コツとか」
「なるほどね。隠し味かーなんだろ?味噌かな?タネの中にちょっと入れるの。コクが出るからいいよ。コツ、愛情?」
「ふわっとしてる。愛情は込めてるつもりなんだけど」
「んふふ、冗談。やっぱ慣れだと思う。好きこそ物の上手なれ、好きなもの沢山作ってたら上手くなるよ」
「そうゆうもんかなぁ」
野菜売り場で白菜をカゴに入れる。ニラとしいたけ、生姜とニンニク……これはチューブの物を使わないということか。
「お肉はどうしよっかな。鶏ひき肉少し入れると柔らかくなるのよね。混ぜる?」
「でもいつもは合挽なんでしょ?今日はいいよ。また今度で」
「りょーかい」
レトルト食品なんかが並ぶコーナーを歩く。
「あ、俺わかめスープ飲みたい」
「え?別に良いけど……中華スープの素買わなきゃ」
「ん、カップスープでいいよ。作るの面倒じゃない?餃子も作ってもらう事だし」
「そう?じゃあ楽しよ」
「俺の為に用意してくれるだけで嬉しいよ。俺さ、これからも死ぬまで毎日、こうやって君の作ったご飯食べたいんだけど、作ってくれる?」
「そっか。………え?」
彼女の足が止まる。 その手をとって構わず歩く。 顔が熱い。急いでレジに向かう。
「そ、それって、さ。プロポーズ?なんちゃって」
俯いたまま彼女が会計を済ませる。
「そのつもり、なんだけど」
「……ねぇもっとタイミングとかムードとかあるじゃん」
「いや、なんか今言いたくなった。ごめん」
お釣りを受け取り、スーパーを後にする。 衝動的に言ってしまったとはいえ、覚悟は出来ていた。俺はやっぱりこの人と一緒に居たい。
「返事、すぐじゃなきゃダメ?」
「なる早で」
少し考え込んだ後、彼女が口を開く。
「……私で、良いなら」
それだけ言うと、彼女はあっ、と小さい声をあげる。
「どした?」
「餃子の皮買うの忘れた」
彼女のはにかんだ笑顔が、たまらなく愛しかった。
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以前別のとこに投稿したもの。
ちなみに餃子めちゃくちゃ好きなんですが、実家の近所のラーメン屋さんが今まで食べた中で一番美味しいと思う。
久しぶりに行ってみたいな。
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