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フェルト

こんにちは。初めまして。
 君の名前は?

ああ、君が優ちゃんか。
僕のお母さんが優しい子になって欲しいって付けたって話をしてたんだけど、君がそうなんだね。 僕の名前はまだ無いから、いつか君が付けてくれるといいんだけど。

 こんにちは。今日は何して遊ぼうか?
イテテ、僕の耳を食べないでおくれ。
ボタンがとれて飲み込んじゃったら大変だからさ、ね?いい子だから。
寝ちゃったかい? そう、僕を抱いて眠ってくれるんだね、温かくてふわふわだよ。 おやすみ。 

おはよう。え?それは僕の名前かい?
なるほど、ふわふわしてるから「ふわ」っていうんだね。
これから僕はそうやって君に呼ばれるんだね。 なんだろう。少しくすぐったい。 よろしく。優ちゃん。

 はは、そんな顔しないでおくれ。大丈夫。 お母さんにすぐ背中を縫ってもらうから。
良いんだ、君がそうする事で楽しかったんだ。 君が楽しいなら僕はそれでいいのさ。
涙を拭いて、笑っておくれ。 

やあ、今日はお友達と遊ぶんだろ? お出かけかい? 僕はここで君の帰りを待っているね。
最近ゲームばかりしてるけど、お母さんの言う事をちゃんと聞いて、しっかり時間を決めてやるんだよ?
僕は目がボタンだから悪くなることは無いけど、君の目はこれから色んなものを見るために付いてるんだから大切にしなきゃね。

 悲しいのかい?
優ちゃん。 お友達に、人形なんか持ってて気持ち悪いとバカにされたんだって? お母さんが喋ってるのが聞こえたよ。
僕のせいなのかな。どうしてあげたらいい?
僕は悲しいとか寂しいとかわからないから、君の気持ちを理解してあげられないんだ。
その感情をどこにぶつけていいかわからないのかい?僕じゃ、君を癒してあげられないかい?


良いのさ、そのくらいしか、君にしてあげられる事は無さそうだ。

ああ、君の手が、指が、僕を。
僕を掴んで、力いっぱい、引き千切る。

 僕は、ずっと変わらずにここに居るけど、 もし僕を見て、あの頃とは違うと感じるのであればそれは君が大人になったから。


いいんだ、いいんだ、君にとって僕はもう必要ないという事だろう? 君が泣きながら僕を抱え上げる。 大丈夫、泣かないでおくれ。


君が大きくなるにつれて、一緒にいる時間は減ってしまったけど、寂しいと思った事もちょっとはあったけど、君が新しい何かに夢中になると僕の体の真ん中が何故だかポカポカするんだ。


これが嬉しいって事なんだろう? 僕もこの手で君をギュッとしたいけど、それが出来ない事が悔しいって事だろう? 君が教えてくれたんだ。

ありがとう。 僕は幸せだったよ。
どうか優しい人になって。バイバイ。


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いただいたお題で短編書いたやつの3つめ。
クマのぬいぐるみって、ふわふわしてて可愛いんだけど、いつから手元に置かなくなったんだろ。


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