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あの子はかわいい

私は大学時代研究室に在籍していて、そこで一緒に卒論を書いていた子のことを、先日ふと思い出した。

その子はかわいかった。
かわいいというのは、たしかに容姿が整っていたというのもある。
しかしながら、彼女は性格も死ぬほどよかったのだ。
気立てが良くて優しくて、私のような地味で目立たないオタクにも気兼ねなく話してくれた。
勉強だってすごくできて、スポーツも得意だった。
マジでなんでもできすぎていて、回り回って私は総合的にその子ことを、「かわいい」と認識していた。なんとも表面的な言葉にまとまっている。
人はあんまりすごい人に出会うと、結局これくらいの語彙でしか表現できないのだ。

その子は真面目で、多分人生の計画だって学生時代に建てていたんだろうと今なら気づく。
だって就活スクールのようなものに通って、そのうえ暇がないくらいインターンに行っていた。
計画がないとこんな血のにじむ努力なんかできないと私は思う。

私は私で、資格試験の勉強や実習・実験、そしてバイトに明け暮れていた。
だからその子のことを化け物だと思っていたし、尊敬していた。
常人にないバイタリティの持ち主だったから、もはや殿上人のように見えていた節もある。
そんな彼女が、あれだけ頑張って超大手企業の内定をとっていたのに、結局地元の企業(地元では名が通っているとはいえ)に就職したのは、勝手ながらもったいないなって心の中で思っていた。
もっとこの子ならいけるだろうに、って。勝手な話だ。
いろんな事情があるに決まってるのに。
私はその子と所詮研究室繋がり程度の情報しか知らなかったから、きっと人知れない悩みなどがあったかもしれない。
しかし当時の私には、超順風満帆に人生が進んでる勝ち組に見えていた。
彼女の努力は断片的に聞いただけでもすごいとわかっていたので、そこに対して嫉妬心などはなかった。

なんでこのことを思い出したかというと、LINEで彼女の苗字が変わっていて、アイコンが子供の写真になっていたからだ。
大体こういうことって知ると鬱になるんだけど、このときは何とも思わなかった。
当たり前だ。彼女とは卒業してから一度も連絡を取っていない。
それに、彼女が「かわいい」ことを私は知っているからだ。
元気にしてるのだろうか。
彼女が学生時代に描いた道筋は、今辿れているのだろうか。
今でも人生設計なんか1ミリもちゃんと出来ていない私は、ぼんやりとあの子のことを思い出すのだ。

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