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絵本の中に迷い込んだような映画『友だちのうちはどこ?』

子どもの頃読んだ絵本、『はじめてのおつかい』のような身近な冒険を思い出させる映画。アッバス・キアロスタミ監督の『友だちのうちはどこ?』をPrime Videoで観た。

あらすじ・概要

物語は8歳の少年アハマッドが同級生ネマツァデの宿題ノートを間違えて持ち帰ってしまうところから始まる。ネマツァデが「次にノートを忘れたら退学」と先生に叱られていたことを思い出し、アハマッドはノートを返すために必死に友だちの家を探しに行く。

感想

アハマッドの健気さに、可愛さと哀れさが入り混じり、終始なんとかしてあげたい気持ちにさせられる。「はじめてのおつかい」(某TV番組でも、絵本の方でも可)が好きな人なら、共感できる部分が多いはず。小さな存在が一所懸命頑張っている様子は、大人の目線でも、子どもの頃の記憶を呼び起こすものとしても、心に響いた。子どもの頃に観たらまた違った気持ちになると思うので、子どもの頃にも観てみたかったなぁ。

主人公のアハマッドの不安げな表情がとても印象的で、調べてみると、この映画は職業俳優を使わずに撮影されているそうだ。素人感がむしろ自然で、彼の表情が素晴らしかった。すべてが自分より大きく見える世界に立ち向かう姿に共感し、心を抉られた。

また、物語の中で大人たちが話を聞いてくれない様子が描かれ、子どもの純粋な思いが伝わらないことへのもどかしさが伝わってくる。徹底して大人は話が通じず(まるで言語が違う者同士のように)、会話が成り立っているのが子ども同士のときだけなのだ。いくら懸命に事情を説明しても、繰り返し同じ返答ばかりしてくるし、無視するし、挙げ句邪魔までしてくる。まるでRPGのモブキャラのように。とにかく大人は役立たず。赤ちゃんや幼児が主張が通らずに泣き喚くことで訴えてくるのはまさにこれだな、と思う。「使えねーな!何で何回言ってもわからねぇんだよ!ばか!」って大人に対して思っている。
自分が大人になった今、子どもを「話の通じない生き物」として見てしまうこともあるが、かつては子どもだった自分も大人に対してそう思っていたことを思い出した。子どもの延長線にあるのが大人であるはずなのに、大人って子どもの目線で見ると、話の通じない妖怪みたいな存在だ。今は自分も、そんな大人になってしまったんだなぁ。



子どもの頃、世界は大人が作っていると思っていた。大人が支配する自分より途方もなく大きなものに囲まれて生きていくことが途轍もなく不自由に感じていたし、いつか自分が大人になることを不気味にも思っていた。
だけど、私は子どもの頃早く大人になりたいと思っていて、それは「自分の意志で自分の全てを決められる権限がほしい」と願っていたからだった。私にとって大人になることは自分の操縦権を自分で持てることだと思っていた。結局、大人も思っていたほど自由ではないし、あの頃の閉塞感が薄れたとはいえ、今もなお「早く大人になりたい」と思ってしまうことがある。妖怪みたいな生き物と思っていた大人に。

大事件が起きるわけではないが、終始ハラハラしつつ、最後は爽やかな気持ちにさせてくれる、とても良い映画。短時間で観られるので、ぜひ未鑑賞の方におすすめしたい。

この映画は、江國香織さんと井上荒野さんの対談本『あの映画みた?』で知った。映画好きには、こちらの本もおすすめ。

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