見出し画像

初めてスピッツのライブに行った話。ここは地獄ではないと思えてよかった

スピッツのことを、何がきっかけでいつからすきになったのか、全く思い出せない。
わたしが生まれた頃にはすでに大ヒット曲『チェリー』を生み出したバンドになっていて、実家には当たり前のようにCDがあった。
わたしは特別好んで聴いていたわけではなかったけれど、大学生のころに30周年記念のベストアルバムがリリースされて、なぜか「今これを買わないと後悔する」と思ったので買った。当時住んでいた仙台の駅前のTSUTAYAで、大事に貯めていたTポイントを全部使って買った。聴いてみたらほとんど全部の曲を知っていることに驚いたのを覚えている。

それから6年。この間にだいぶいろいろあった。就活とか実習とか国家試験とか。失恋とか。わりと人生のなかでも辛い時期だった。コロナ禍も相まってかなり疲弊していた。
すきだったはずのアーティストの音楽をいつの間にか聴けなくなったり、新曲が出てもなかなか聴く気力が湧かなかったりした。でもスピッツは、どんなときでもいくらでも聴けた。いつだってスピッツの音楽は優しかった。
いつかライブに行きたい、とずっとずっと思っていた。


今日まで本当に、本当に長かったな、と思う。


ようやく目の前に現れて音を鳴らしたスピッツは、わたしが思い描いていたものとは少し違っていた。
とにかく音が大きい。声も大きい。ときたま音割れするくらい大きい。演奏のエネルギーが、圧力が、ものすごく高いのだ。かっこいい。かっこいい…
あっけにとられてしまって、初めの3曲くらいまでは呆然としていた。
最初の短いMCを終えてから、ようやく実態をともなった音として認識できたような気がする。と思ったら急に涙が出てきた。

ボーカルの草野マサムネさんの声は、心の奥底の誰にも触られたことのない場所をぎゅっと掴まれているような気持ちになる声だった。切なくて苦しくて息がうまくできない。なのに意識が飛んでしまいそうなほどに気持ち良くて、もっともっと欲しくて、ずっと終わってほしくないと思った。
音楽でこんな絶頂感を味わう日が来るとは思わなかった。それもスピッツのライブで。本当にしあわせだった。

生きていてよかったな。べつにしにたかったわけじゃないけれど、この1ヶ月くらいの間は本当にしんどかったから。
マサムネさんが最後の最後に「おひとりおひとりにお伝えしたい。生まれてきてくれてありがとうございます」と言った。この人にこんなことを言われてしまったら、どんなに生きづらさを感じてもわたしは生きていけると思えた。

ここは地獄ではないんだよ、とスピッツが教えてくれた気がした。
あの奇跡のような音が耳からこぼれ落ちないように、イヤホンをしないで電車に乗った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?