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オススメの本100冊(感想文付き)〈歴史Ⅱ〉

※専門書は外しました。
※ややネタバレあり


【61】ジョン ダワー『アメリカ 暴力の世紀――第二次大戦以降の戦争とテロ』

タイトル通りアメリカの暴力行為の羅列。ピンカーが暴力は漸減しているという楽観主義を説いてるのに反駁して、第二次大戦後の世界が平和とは程遠く、国家間戦争の犠牲者こそ減っているものの、アメリカの代理テロ、政府転覆作戦などによって膨大な犠牲者を出していることを示している。何より特に中東での短期戦争は実は数百万人単位の犠牲者のみならず、インフラ破壊や無秩序状態により地域の不安定化を招き、間接的な犠牲者を出している。そのことに対する無反省ぶりを糾弾するダワーの筆致も鋭い。

【62】電力の鬼―松永安左エ門自伝


福岡では西日本鉄道の前身を作った人として知られているので、こんな全国スケールの人物だとは、恥ずかしながら知らなかった。若き頃の野心を成就させようとの執念はベンチャー魂そのものだが、国益、国民のために働いたのも一側面にあろう。老翁にして「未来を見るのが若者なら、私は若者だ」と言ってのけるエネルギーに脱帽。舌禍も含めてこの人物の生き様なんだろうなあ。


【63】長谷川貴彦『イギリス現代史』

階級社会が特徴だったイギリス社会が、第二次大戦を契機に福祉国家になり、ケインズ主義を経て、サッチャーの新自由主義になり、その反省もあって中道主義に向かう。「ゆりかごから墓場まで」から「サッチャリズム」、「第三の道」まで、なんと振れ幅の大きい国だろう。著者は福祉国家論が専門なので、サッチャリズムの評価などは一つの視点であることを汲まなければならないだろう。


【64】水島治郎『ポピュリズムとは何か―民主主義の敵か、改革の希望か』

あらためて感じたことは、民主党がエスタブリッシュメントを代弁し、古くからの労働者階級、労働組合との紐帯を自ら断ち切ったこと、そしてヒラリーへの嫌悪が、トランプの勝利につながったということかなあ。左派の受け皿として、社会主義を掲げる民主党候補者に触れていることも時世に合っていてグッド。

【65】鈴木透『食の実験場アメリカ-ファーストフード帝国のゆくえ』

画一化されたファストフード大国という先入観しかなかったたが、特に先住民に大きく影響を受けた独自の、そして多様な食文化があることにまず驚かされた。アイデンティティを再発見するために、食文化のルーツをたどるべきという意見には首肯するが、いったん駆逐された食文化を取り戻すのはまた難しいとも思える。とにかくファストフード化以降を含め、アメリカ食文化の多様性に驚かされる次第であった。

【66】網野善彦『歴史を考えるヒント』

言葉の成り立ちからわれわれのアイデンティティを見つめなおそうというアプローチ。一貫していることは日本には多様性があったということ。「百姓」=農民という誤解から、さまざまな職業と産業があったことが無視されている、「日本」は689年に国名として成立しているが、そこで一体性を強調するのではなく、むしろ日本の支配地域は限定的であり、関東や九州の自立の動きや、東北や南九州の人々の抵抗、北海道や沖縄といった支配権の及ばなかった地域などを考慮に入れることを主張している。目からうろこの一言。


【67】ドナルド・キーン『足利義政と銀閣寺』

足利義政が政治的には暗愚ながら、東山文化の庇護者として大きな足跡を残したのかが、たいへんわかりやすく解説されている。茶道、庭園、生花、能と、現代日本の心に直結する多くのものが栄えたのがこの時代であった。序盤の応仁の乱の解説も、今まで読んだ解説の中で一番わかり易かった。義教という人も興味深いね。

【68】 村上陽一郎『ペスト大流行: ヨーロッパ中世の崩壊』

確かにペストはヨーロッパ中世の崩壊をもたらしたが、次代へつながるものを加速させ、取り残されるものに引導を渡す働き以上のものを積極的に生み出したのではないとする著者の総括が印象的だった。それと「科学革命」以前の人々の世界観、想像力を探るうえで、ペストの原因説(占星論、地震説、胆汁説など)を掘り起こしたのは意義があろう。それにしても7000万人死亡した黒死病の教訓を生かさずに、パンデミックを過小評価する人も少数ながらいることに、首をかしげざるを得ない。


【69】メイナード・ソロモン『ベートーヴェン』

ナポレオンの専制に激怒して「英雄」の楽譜を破り捨てたとか、「運命」の冒頭部をして「運命はこのようにドアを叩く」と述べたとかいったエピソードは史実でないとほぼ断定されているベートーベン。完璧な人間のイメージとは異なり、彼は多くの欠点を抱えていた。出生にコンプレックスがあり、貴族の出であることを主張するどころか、フリードリヒ大王の庶子であるという妄想を抱き、その噂を広めるままにした。甥を精神的に拘束し、自殺未遂を図るまで追い詰めた。恋愛はいつも破たんし、結婚もできなかった。私が作曲のことは全く分からないが、引き算すらできない学力も大いに苦労したのではないか。
完璧な人間にせよ欠陥のある人間にせよ、ベートーベンは厳格なイメージが付きまとう。結果「モーツアルトはクリエイティブな右脳型、ベートーベンは情報処理能力に長けた左脳型」などと論じられ、「これからは遊び心を持った右脳型人間の時代だ」とまで論じられる。
その主張はベートーベンファンの私にはちと辛い。ベートーベンが遊び心を持ったクリエイティブな人間であることは、交響曲7番を聴けばすぐわかる。人間は右脳型・左脳型に分けられるほど単純ではないことは、科学的にも立証されている。

【70】 服部龍二『広田弘毅―「悲劇の宰相」の実像』

日中提携および対ソ外交を期待され、本人も意欲的に取り組むが、軍部の横やりうんざりし、やがて意欲を失っていく過程が描かれる。中国大使館の設立の際も、部下から「対中対策すなわち陸軍対策ということをわかっていない」などと評されたり、対中問題を部下に任せきりで意図しない声明を表明されたりと、どうも政治力学もリアリズムも、マネジメント能力も欠けていたようだ。優柔不断で軍部に押し切られることもしばしばだったが、だからといって極刑に処されたのはやはり悲劇と私は思う。城山三郎の歴史小説の影響力も思い知らされた。

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