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オススメの本100冊(感想文付き)〈歴史Ⅰ〉

※専門書は除いています。
※ややネタバレありです。


【51】池内恵『【中東大混迷を解く】 シーア派とスンニ派』

現代中東を大局的に見れば、イラン革命、イラク戦争後の政局、レバノン紛争によって、シーア派が台頭し、「宗派戦争」が激化しているようにみえる。しかし中東の紐帯は単なる「スンニ派」「シーア派」という二極論ではなく、様々な宗派・部族などによる「まだら状の秩序」においてせめぎあいが続いている。西洋民主主義/国家によるフクヤマ流の解決策も頓挫している。欧米のプレゼンスが退潮している中、イランやトルコなどの地域大国の介入も見逃せない。これら超複雑な政局をとても丁寧に説明してくれた。


【52】池内恵『【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛』

中東の政情不安定は様々な民族や勢力が入り乱れる現実にあるのであり、当時の「人類の英知」をもってしても解決しえなかった。▼著者はもちろん抑圧的な国家や、非人道的な手段(移民や住民交換など)を是認しているのではないが、オスマントルコの崩壊によってパンドラの箱が開かれたこと、移民などによって解決してしまった「グロテスクな事実」があることも事実。▼たとえ抑圧的・覇権主義的であっても、これらの混乱の終息させる中東国家の存在なくして解決しないのだろうか。興味は尽きない。


【53】ローレンス・フリードマン『戦争の未来-人類はいつも「次の戦争」を予測する』

戦争に関する未来学の歴史。普仏戦争から第一次大戦、第二次大戦、冷戦、内乱、対テロ戦争、サイバー戦争と研究者たちの予測は時に当たるが、おおむね外れる。今回のウクライナの戦争もとても近未来的な戦争像とはいえず、あらためて核戦争の脅威や独裁者の暴走といった「懐かしい」戦争像なのではないか。そういう意味で研究者たちの予測はまた外れたとも言え、ゆえにこの著の主張は当たったといえるのではないか。読み応えのある大著だった。


【54】川北稔『世界システム論講義: ヨーロッパと近代世界』

ヨーロッパの発展段階論的史観に浸かっていた私には目からうろこの歴史観。政治・軍事的「帝国」ではなく、有機的に形成されている世界経済の中心となる「ヘゲモニー」の変遷から世界史を語っている。ポルトガル→スペイン→オランダ→イギリス→アメリカと欧米が近現代のヘゲモニーを握ってきたが、世界システムがグローバルに覆う時代となった今、世界システムのパラダイムシフトは起こるのか、また終章にあるように、金融・情報が新たな世界システムのカギとなるのか、思いを巡らす。


【55】佐橋亮『米中対立-アメリカの戦略転換と分断される世界』

中国を眠れる獅子から巨竜に「育て上げ」、地政学的・経済的脅威になると一転態度を硬化するなど、米中関係の方向性を主導しているのはむしろアメリカであるという視点のもと、ニクソン以降の対中政策を追っている。中国の動きが描かれていないのが片手落ちのように思えるが、「アメリカの対中政策」という文脈で読めばわかりやすく面白い。冷戦下でのソ連に対する抑止力として期待され、市場としての魅力、そして関与することによっていずれ政治体制や人権問題なども是正されるという中国に対する甘い見通しが、巨竜を育ててしまったことがわかる。

【56】ウィリアム・ペリー『核のボタン 新たな核開発競争とトルーマンからトランプまでの大統領権力』

著者の危惧をまとめてみると、核攻撃の警報システムの不具合による報復が、大統領一人の特権により行われえるという脆弱性、先制攻撃の放棄どころか、核開発競争が再開されようとしていること、ICBM(長距離核ミサイル)と戦略ミサイル防衛は効果がないこと―だろう。核兵器の抑止力により、戦争はなくなったという識者さえいるが、1945年以降75年間、綱渡りのような運営管理と不断の努力によってなんとか核戦争を回避できていたことを肝に銘ずべき。

【57】古谷旬『グローバル時代のアメリカ 冷戦時代から21世紀』


1973年から2020年までのアメリカ史。1960年代の第二次産業革命による「黄金時代」が終焉し、グローバル化、新自由主義、多文化主義的な傾向の進展という長期的トレンドよって文化的にも経済的にも引き裂かれ、「衰退」という前提のもとにトランプが登場するまでを見事に描き切っている。オバマとトランプにむしろ共通項を見出し、「ポスト・アメリカ」とまで言い切った構成、そしてなにより、最後にケネディとトランプを対比させ、アメリカの普遍的概念であるはずの民主主義が欠落している現状を鮮やかにしめした。夢中になって読んだ。


【58】ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か

イギリスやアメリカのように、既存の大政党が中間層を代表するようになるなかで、「置き去りにされた人々」の受け皿としてポピュリズム政治家が台頭してきたのはよくわかった。現代ポピュリズムが極右思想を克服し、まっとうな選択肢へ変貌していること、多様化のなかで西洋文化を守る「啓蒙ポピュリズム」という視点も目新しかった。ちょっと疑問は、ポピュリズムは中高年・ブルーカラー・低所得者層という指摘。むしろポピュリズムは愛国主義的な若者までを包有しているのではないか。そうでなければこれほどの広がりは見せなかったのではないか。


【59】ドナルド・キーン『果てしなく美しい日本』

題名とはうらはらに、日本人の家族・教育・信仰・労働・娯楽などが、よいと思えることもそうではないと思えることも臆することなく考察されている。まず日本礼賛の書でないことに好感がもてた。もちろんアメリカ人による比較文化論なのだが、60年を経た今、もうそれは同時に「歴史」の範疇である。そういった意味で、失われた日本文化の貴重な資料ともいえるだろう。例えば日本人は文学を愛好していて何十もの文学雑誌があるとか、プライバシーのない生活を好むとか、神棚と仏壇は必ずあるとか。昭和・平成・令和を経た我々にはもう歴史である。


【60】ユヴァル・ノア・ハラリ『21 Lessons ; 21世紀の人類のための21の思考』

「私たちに意味とアイデンティティを提供してくれる物語はすべて虚構だが、人間はそれを信じる必要がある」と述べる著者。とすれば宗教や民族、民主主義や資本主義といった一見普遍的と思われる価値観も物語であり、疑ってかかる必要がある。というわけで21世紀の常識を再考して未来につなげる「レッスン」としてはなかなか面白かったと思う。1つテーマを挙げると環境問題。今までは経済がグローバリズムのけん引力だったが、これから地球規模の温暖化を防がなければいけない以上、エコロジーがグローバリズムの正当性の根拠になるという示唆。

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