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自動詞と他動詞(さらに続き)

日本語の助詞「を」は動作が作用する対象を表す目印の役割を果たします。こう説明すると日本語の「名詞+を」は英語の他動詞の目的語と似ています。実際、多くの場合は日英語がこれで対応しています。

母は鮭食べた。
My mother ate some salmon.
ジョンは本読んだ。
John read a book.

しかし、完全に一致するわけではありません。日本語の「名詞+を」は移動を表す動詞とも結びつき、移動の経路や範囲を表します。これに対し、英語は移動を原則として自動詞で表し、経路や範囲はさまざまな前置詞を使い分けて表します。英語の前置詞はもともと空間関係を表すものですから当然の傾向といえます。

彼女は通り歩いた。
She walked along the street.
鳥が空飛んでいる。
Birds are flying in the sky.

移動と似た表現に発着、すなわち出発と到着の表現があります。このうち出発の動詞は日本語では「名詞+を」と結びつき、英語では「from+名詞」と結びつきます

列車は8時に東京発つ。
My train departs from Tokyo at 8.

「人生を歩む」のように、人生を旅に見立てる比喩が日本語にも英語にもあります。出発表現の比喩的展開が次のような例に見られます。

父は会社退職した。
My father retired from the company.
彼はオックスフォード大学卒業した。
He graduated from Oxford.

これらの例を見ていると、日本語の「名詞+を」は必ずしも物理的接触を表してはいないことがわかります。英語で「他動詞+目的語」の文が物理的接触を表さない場合は、目的語の物・人への心理的・社会的影響が強い場合です。日本語では目的語の(あるいは目的語に相当する)物・人への影響よりも、動詞側からの作用という観点から「を」使っています。このため、「なかなか容易には得られない物事」を求めるときに日本語では「名詞+を」を使います。英語では得られるかどうかわからない物事に強い影響が及ぶとは考えないので、気持ちが向かう方向を表す前置詞forを用います。

我々は中東和平望む。
We hope/wish for peace in the Middle East.
トムはぼくたちの助け求めた。
Tom asked for our help.
彼らは内閣の総辞職要求した。
They called for the resignation of the whole Cabinet.

もう少し続くかもです。


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