題名読書感想文:44 言葉のイメージに引っ張られている
読書の秋だろうが何だろうが、頑なに題名だけ読んで感想文を書く、そんな題名読書感想文をチマチマ更新している次第です。
今回のテーマは「イメージの影響」です。どういうことかと申しますと、言葉には辞書的な意味の他に、大抵は言葉のイメージがついているわけです。例えば、「読書」だったら、辞書的には「本を読むこと」ですけれども、本を持った時の重量感とか、ページをめくる音とか、インクのにおいとか、人によっては好きな小説とか、よく行く図書館とか、「読書の秋」から連想して秋をイメージする人もいるでしょう。そんな感じで、言葉にはそれぞれイメージがある。
そう考えると、難しそうに聞こえますけれども、皆さん誰かとお話したり、SNSでメッセージを送ったりする時、無意識のうちにイメージを活用しているはずなんです。「いつもの店で待ってるね」なんて言葉は、相手と自分との間に「いつもの店」のイメージを共有しているからこそ、細かい説明をせずとも意味が通じるわけです。つまり、皆さんもイメージの使い手なんです。
ただ、そのイメージが思わぬ影響を及ぼす場合がございます。そんな思わぬ影響を及ぼしている題名を今回は集めてみました。
例えば、「影の取締役の基礎的考察」です。
当然ながらポイントは「影の取締役」でございます。「影の取締役」とは何なのか。出版社のサイトに書籍の詳しい説明がありました。
上記サイトから一部引用します。
つまり、「影の取締役」はイギリスの法律で定められている、ちゃんとした制度でございまして、取締役に指図をする人のようです。取締役にあれこれやらせる性質のため、「影の取締役」なんて名前になったのだと思われます。独特なセンスの名前は、翻訳された言葉だからだと推測されます。
しかし、そうと分かっても、「影の取締役」は裏ボスみたいな感じが否めません。絶対これ、サラリーマン漫画の黒幕じゃないですか。話の序盤は名探偵コナンの犯人みたいに真っ黒な姿で描かれていて、ラスト間際になってようやく顔が見えるタイプのキャラです。しかも、意外と身近な人間だったなんてどんでん返しもセットです。
日本の法律は憲法すらよく分かっていない私ですが、イギリスの会社法だけは調べたくなってまいりました。条文の中に「影の取締役」という単語が潜んでいるかと思うとワクワクしてきます。
続いては「ドクター夏井の外傷治療『裏』マニュアル」です。
著者の夏井さんは検索したらすぐ出てきました。傷や火傷に特化したお医者さんなのか、経営されているクリニックのロゴにも「キズとやけど」と書かれています。
どう考えてもマジのお医者さんでございます。院長にもなられている。ちゃんとした方でございます。しかし、「『裏』マニュアル」という表現に、濃厚なブラックジャック臭がするんです。
ご存じ日本で最も有名な無免許医師ですね。これはもう「医師」で「裏」と来たのが原因でしょう。「腕がすごいのは知ってますけど、医師免許、大丈夫っすよね?」との不安が漂いかねません。そんなわけないんですけど、杞憂が襲いかかって来かねない。
ちなみに、夏井さんはキズだけでなくヤケドにも強い方ですから、もちろん「ドクター夏井の熱傷治療裏マニュアル」という本も出されています。
それから私、不勉強ゆえに初めて知ったのですが、ブラックジャックの本名は間黒男だったんですね。そんな喪黒福造みたいな名前だったなんて。
続いての題名は「元CA訓練部長が書いた日本で一番やさしく、ふかく、おもしろい ホスピタリティの本」です。
ホスピタリティとは、かなりザックリと言ってしまえば「おもてなし」でございまして、主に接客の場面で大切にされている考え方でございます。詳しい説明は以下のサイトなどに書かれています。
ただ、この題名の注目点はホスピタリティではなく、「元CA訓練部長」です。特に「訓練部長」によって、ちょっと違った見方ができてしまう。
というのも、「訓練部長」となると、なんか軍隊とか特殊部隊とか、火器と馴染みが深いお仕事のイメージが強いんです。実際、先ほど「訓練部長」で検索したところ、最初に出てきたのがウィキペディアの「防衛大学校の人物一覧」でございました。上記書籍を扱ったサイトもそこそこ出てくるんですが、それ以外は大体防衛省がらみのページで占められている。私のイメージは世間のイメージとそこまでズレていないのだと思われます。少なくともGoogleが持つ訓練部長のイメージそのままです。
こうなると、CAも特殊部隊の略語に見えて仕方がありません。SASみたいな、そういう激烈にタフな部隊に見えてきます。「アテンション・プリーズ」だって何だか違う意味に聞こえてきそうです。多分、言うことを聞かないとすぐ銃弾を撃ち込まれるんです。
妄想はこれくらいにして次に移ります。続いては「ポンチ絵とQ&Aですぐわかる 国際税務のポイント」でとざいます。
当然、気になるのは「ポンチ絵」です。絵なのは何となく推測されますが、軽快な響きの「ポンチ」がよく分かりません。何なのでしょうか、これは。
ウィキペディアによると、もともとは明治時代に日本で流行した絵を指しまして、1コマの風刺漫画だったようです。とは言え、漫画としては非常に単純なもので、どちらかと言えばイラストに近いものでした。いわゆる「コマ割り」や「キャラクター」などを取り入れた、現代に近い漫画となったのは大正時代に入ってからの話でございまして、そのため、昭和初期になると、「ポンチ絵」は古臭い漫画を指す言葉に変化していきました。
ここから転じて、製品設計の現場において、構想や設計図の下書きを漫画っぽい絵で描いたものが「ポンチ絵」と呼ばれるようになります。また、官公庁でも文書の内容を分かりやすく単純な漫画っぽい絵で表したものも「ポンチ絵」と呼ぶようになったとのこと。
上記書籍の題名に出てくるポンチ絵は製品設計と官公庁、どちらのルーツなんでしょう。国際税務となると、官公庁の線が濃厚でしょうか。
そんなことよりポンチ絵なんです。特にポンチ。ポンチ自体に悪い意味は全然ないんです。でも何か悪口っぽく聞こえるんです。
どうしてなんでしょう。多分、「ポ」みたいな半濁音とか「ンチ」で終わるところとかが、間の抜けた感じに聞こえるかもしれません。「そんなことで」と思われるかもしれませんが、言葉の響きは意外とイメージに影響を与えるんです。
最後は「図説心なし研削の手引き」です。
「心なし研削盤の原理と設計」という本もございます。
まず研削とは何かという話なんですけれども、砥石を使って素材の表面をゴリゴリ削ることを指すようです。
一言で研削と言っても、いろいろ種類があるようです。円盤状の砥石をグルグル回して、削りたいものに近づけてゴリゴリやるタイプとか、棒状の砥石をグルグル回して輪っか状の物体の内側をゴリゴリやるタイプとか、とにかく多彩なゴリゴリがございます。
どのタイプの研削も大体、削るものを主軸などで固定しておこないます。ただ、例外的に削るものを固定しないタイプの研削もありまして、それがセンターレス研削、別名「心なし研削」なんだそうです。
ゴリゴリ研削する用の砥石と、位置などを調整する用の砥石、それから削りたい物体の3つをうまい具合に持ってきて、物体の外側を丸く削るという、不思議な加工法でございます。
私は研削ビギナーでございますので、正確に知りたい方は詳しい人に聞くか、その手の本を読むかしてくださればと存じます。そんなことより題名なんです。
「心なし研削」の「心なし」は「しんなし」と呼ぶようです。そのためか、「芯なし」と表記する場合もあるようです。それはともかく、「心なし」だったら普通は「こころなし」と読む人のほうが多いのではないでしょうか。「心ない言葉」みたいな形で使われる、決していい意味ではないワードでございます。
つまり、「心なし研削」も思いやりのない研削だと誤解されるおそれがあるわけです。思いやりのない研削って何なんだって話ですけれども、誤解とは時に意味不明な発想に繋がるものです。心無い研削もまた同様でございます。
何がどう影響するか予測がつかない。それが言葉のイメージでございます。