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逃亡者になれる医者の条件

 「逃亡者」とは1963年にアメリカで放送が始まったテレビドラマです。無実の罪で死刑を宣告された医者が護送中に逃亡し、各地を転々としながら真犯人を探すという物語で、非常に人気を博したそうです。この「濡れ衣を着せられた人物が逃走の旅を続けながら真犯人を探す」という形式は主人公の状況や目的が一発で分かりますし、各地を転々とすれば割と簡単に話を続けられ、更に視聴者をハラハラさせる状況を作りやすいなど、ストーリーとして非常に優秀な部類に入ります。そのためか、この手の話は「逃亡者」のリメイク作品を筆頭に、様々な国の様々な作品で使われ続けています。

 こういう逃走劇は「逃亡者」の印象が強いせいか、往々にして医者が主人公になります。そして、逃げた先々で出会う人を治療して回る。その治療行為の一つひとつが小さなドラマとして折り重なり、大きなストーリーを築き上げるわけです。

 そんな事情から、逃亡者になる医者は特定の条件を満たす必要がある。映画好きの友人はそう力説します。以下、友人の主張を書いて参ります。

 まず、外科医または外科的手術ができる医師であること。何しろ逃亡中ですから、満足な治療ができる状況にない。「お薬出しときますね」の「お薬」が出せないんです。一方、切って縫うタイプの外科的手術ならまだ何とかなる。映像に迫力だって出るでしょう。もちろん、肛門科の医者でもいいと言えばいいのでしょうが、行く先々で人の肛門ばかり覗いていては真剣な場面だったとしても変な感じになってしまいます。「また切れ痔の治療かよ」と視聴者を飽きさせる危険がある。

 また、逃亡する医者は少なくともその辺の医者よりも治療能力がなければいけません。少なくとも藪医者では成り立たない。医療事故を起こしながら逃げ回っては、行く先々で恨みを買いまくって通報される危険性がありますし、そもそも無実の罪を証明するために逃げているのに自分から新しい罪を作る羽目になってしまいます。また、先ほども書いた通り、逃亡中は満足な環境で治療ができませんから、一定の能力が必要となります。何なら天才医師でもいい。フィクションですと往々にして意味もなく天才が出てきては縦横無尽に活躍してしまいますが、逃亡者的なお話は主人公が天才である必然性があるわけです。

 そして、逃亡する医者は人格者でなければなりません。クズ医者でもストーリーは展開できるでしょうけれども、それこそ逃亡先で喧嘩して通報される可能性が上がってしまいます。それに視聴者だって「こんなやつ早く捕まれよ」となってしまって主人公に感情移入できません。「この人は罪を犯して逃亡している医者だけれども、大切な人の命を救ってくれたのだから」みたいな感じで医者の逃亡を見逃す場面がこの手の話の醍醐味だったりしますけれども、医者がクズだとそれもできなくなってしまいます。

 途中で気づきました。私は今、逃亡者漫談を聞かされていると。何ですか、天才肛門科医の逃走劇とか。

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