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輪廻転生三国志

 私はやったことがないんですけど、歴史シミュレーションゲームというものがあるわけです。日本の戦国時代や中国の三国志など歴史上実在した土地や国や人物を用いて、いわゆる国盗り合戦をやるゲームです。ただし、ゲーム内では史実に沿った結果にする必要はなく、歴史を覆すような現象をいくらでも起こしていいようになっています。ゲームによってはオリジナルの武将を制作でき、史実の武将と一緒に国を立ち上げて戦地を暴れ回るというようなこともできるようです。

 その昔、友人が私の家へ歴史シミュレーションゲームを持って遊びに来ました。彼が持ってきたのは歴史シミュレーションの王道である三国志です。自分でオリジナルの武将が作れるタイプの三国志だったんですが、彼が作る武将は名前が「熱波」とか「蜃気楼」とか「大雨」とか、なぜか知りませんが自然現象から取ったものばかりだったんです。しかも、年齢が3歳なのに顔のグラフィックは髭がサンタクロース並みにあったりする。普通の武将に飽きてしまったようです。それくらいやりこんだ証拠とも言えます。そう言えば、国の名前は「雪」でした。普通のプレイはマジでやり尽くしたんでしょうね。

 友人が三国時代の中国で勝手に建国した「雪」は蜀に攻め込むことになりました。蜀といえばもちろん劉備がいる国でして、「雪」の武将「春一番」と「霜柱」はそこらの武将を片っ端から蹴散らし、なんと趙雲を捕らえることに成功したんです。趙雲を引き込めたら味方の戦力はグンと上がる。早速、「雪」の人々は趙雲の説得を試みます。ですが、何度説得しようと趙雲は首を縦に振りません。友人は「くっそー、さては忠誠心が高いな」と言ってましたが、私は国と武将の名前に不安を感じたんだと思いました。

 いずれにしろ、趙雲の説得は不可能でした。かくなる上はお命頂戴するしかない。友人は趙雲をこの世からおさらばさせてしまいました。さぞかし無念に思っているだろうと思って友人の顔を見ると、全然そんなことありません。むしろ、ケロッとしている。理由を尋ねると、友人はこう答えました。

「どうせそのうちまた生まれてくるし」

 当然、私には何を言っているのか理解できませんでしたので、詳しい話を聞きました。

 どれだけ強い武将でも人間ですから、ゲーム内でも寿命があるわけです。戦闘中にバッサリやられて命を落とすこともあれば、普通に年齢が限界にきて亡くなるパターンもある。ゲームでは実在する武将を大量にデータとして持っていて、一応は史実に合わせて膨大な数の将軍が中国各地に現れ、そして次々に消えてゆく形になっているそうなんです。でも、膨大とは言え有限には変わりない。中国を統一すればクリアになるゲームなんですが、敢えて統一せずに粘っているとゲーム内の武将がなくなってしまう。するとどうなるか。コンピューターはあの世に旅立ったはずの武将たちを改めて中国のあちらこちらに誕生させるんだそうです。しかも、当然のように0歳から戦闘に参加させられる。

 友人が見せた武将一覧を見ると、確かに「雪」には劉備と曹操が仲良く0歳で武将として活動しているではありませんか。他にも呂布とか姜維とか周瑜とか夏侯惇とか、よく聞く方々がスカウト済みでした。

「だから趙雲も200年くらいしたらまた出てくるよ」

 私に歴史シミュレーションゲームへ興味を持たせるため、友人はわざわざ自宅までゲームをしにきたようなんですが、私は「輪廻転生を前提とした中国統一」というあまりにも現実離れしたプレイスタイルばかりが気になってしまったため、結果的に布教は失敗となったのでありました。

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