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題名読書感想文:32 相性がよすぎて融合している

 本の題名だけで感想を書くシンプルな作業が題名読書感想文ということになっております。

 今回のテーマは「融合」でございます。

 文章には「単語」という単位がございます。文章で何らかの意味や働きを持つ最小単位ですね。

 つまり、「コケシをパンチする」という言葉の場合は「コケシ」「を」「パンチ」「する」がそれぞれ単語でございますし、「緊急検便」は「緊急」と「検便」がそれぞれ単語になっていると考えられます。

 しかし、単語を構成している文字同士によっては、単語の垣根を越えて「融合」し、別の単語のようになってしまう現象がチラホラ確認できます。本の題名もまた例外ではありません。

 例えば、「畜産物流通統計」がそれです。

 単語で分けるならば「畜産」「物」「流通」「統計」だと思うんですが、ポイントは「物」と「流通」でございます。

 世の中には「流通」と「物流」という、見た目も意味もよく似た言葉が存在します。流通は商品が生産者から消費者に届くまでの流れを指す言葉です。農家で取れたトウモロコシが我々一般家庭に届くまでの流れみたいなもんです。流通には主に2つございまして、まず商品を消費者に届けるまでの流れにおいて物の所有権や情報の移動を指す商的流通、通称「商流」と、物を消費者へ届けるまでの移動を物的流通、通称「物流」に分けられます。つまり、流通の一種として物流がある、という感じのようです。

 意味はともかく、見た目が似通っているのは「流」という共通文字が原因でしょう。「畜産物流通統計」はその「流」のお陰で単語が本来とは違う感じになってしまい、それが読みづらくさせてしまっているんです。具体的には「物流通」となっているため「物流」なのか「流通」なのか分かりにくいんです。

 似たような事例は他にもございます。例えば、辞典の類には英和辞典のように、ひとつの言葉を別の国の言葉で何と言うのか調べるタイプのものがございます。その手の辞典は各言語を意味する漢字1文字、例えば日本語なら「日」や「和」を題名に導入することで何語を何語に訳する辞典なのかが分かるようになっている。「英語を日本語に訳する辞典」が「英和辞典」といった感じですね。

 2言語を対照させるだけでなく、3言語を対照させる辞典もございます。その場合は当然、言語を意味する漢字がみっつ並ぶ形になっておりまして、例えば「独英和ビール用語辞典」なんかがそれです。

 ビールの用語が英語とドイツ語と日本語で載っている辞典であると、題名ですぐ分かります。このようなスタイルが辞典の題名では確立されています。

 しかし、そのスタイルが誤解を招く場合もあるんです。その最たる題名が「英和中辞典」です。

 前回の題名読書感想文でも取り上げましたけれども、辞典の題名には比較的よく見るスタイルがありまして、それが「大辞典」「中辞典」「小辞典」でございます。辞典の頭に大中小をくっつけることで、辞書の規模や見た目の大きさ何かを連想しやすくしているものと考えられます。

 この「英和中辞典」もまたそのスタイルを踏襲しています。つまり、英和の中辞典であり、ミドルサイズの英和辞典を意味しているわけですね。

 ですが、ご存じの通り世の中には中国語という言語がございまして、当然ながら「中日辞典」が存在しています。

 日本語を意味する漢字が「和」ではなくて「日」なのは「中和辞典」にすると違った意味に見えてしまうからだと考えられます。様々な中和に関する言葉が載ってる辞典だと思われてはややこしいと判断したのでしょう。

 「日」を使うことで「中日辞典」の問題は解決されましたが、そもそもこの問題の根底は「中」がいろんなところで使われている漢字のため、いろんな文字との親和性が非常に強い点にあるんです。「中和」はその強い親和性の一端が現れたにすぎなかった。

 その結果が「英和中辞典」にも影響を及ぼしています。つまり、この題名だと、英和の中辞典なのか、英和中を一気に翻訳できる辞典なのか、一瞬どっちか分からなくなるようになっているわけです。

 ちょっと特殊な誤解を呼ぶ場合もございます。それが「反知性主義」です。

 この場合の単語は「反」「知性」「主義」となるわけですが、誤解の仕方がこれまでと異なっています。大体「反」はそのすぐ後の単語にかかってくるわけです。そのため、「反知性主義」なる言葉を見聞きしますと、「勉強なんてくだらねえぜ、うんこうんこ!」みたいな、知識に反対する主義みたいに判断しがちです。しかし、「反知性主義」は英語だと「anti-intellectualism」となっており、つまり「反-知性主義」なんです。知性主義に反対する主義というわけですね。

 「反」は先ほども書いた通り、すぐ後ろの単語を反対する仕組みになっています。その印象があまりに強いためか、はたまた「反」と「知性」の親和性がありすぎたためか、本当は「反-知性主義」だったのが反知性の主義に思われがちな言葉となっています。

 そのような誤解は「反知性主義」という言葉が日本に誕生した時から多発していたのか、知性主義は「主知主義」とも呼ばれているようです。「反主知主義」だと確かに反知性主義ほどの誤解はありません。とは言え、今のところは反知性主義のほうがよく使われ、誤解され続けているようです。

 これまでは単語の融合によって違った意味に読める題名を扱ってきましたが、同じ単語内の文字同士が融合してしまって違った風に読める題名もございます。例えば「『承認 (アクノレッジ) 』が人を動かす」です。

 ポイントはアクノレッジでございます。ノとレの2文字が「ル」に見えなくもない。こういうのは探せばカタカナ以外もございます。「女子」と「好」とか、「しま」と「ほ」とか、「tこ」と「た」とか頑張れば違う字に見えるシリーズですね。

 私が知る限り、こういう文字の融合は横の繋がりがほとんどなんですが、縦もあると言えばあります。例えば「マヤ道!」がそれです。

 横書きにしてしまうとよく分かりませんが、本の表紙のように縦書きにすると何となく「柔道」に見えてくるんです。強引と言えば強引ですし、相当頑張らないと柔道に読めないんですが、縦書きはかなりレアなので選んでみました。

 ちなみにマヤは3DのCGアニメを作るソフト「Maya」とのこと。

 英語表記をカタカナにした上で、縦に融合させて柔道っぽくしたわけです。CGソフトの本としてはもちろん、融合の面から見てもかなりひねった題名と言えます。

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