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ハラスメント細分化の時代

 嫌がらせは「ハラスメント」とも呼ばれます。そして、ハラスメントと名のつくもので最も早く日本に定着したのはセクシャルハラスメント、いわゆるセクハラだと思われます。ウィキペディアによりますと、セクシャルハラスメントは1970年代初頭にアメリカで生まれた言葉だそうで、日本では1980年代頃から言われるようになり、1989年にはセクハラを理由とした民事裁判が起こされ、セクシャルハラスメントが新語・流行語大賞に選ばれています。

 現象自体は昔からあったんでしょうけれども、それに名前をつけて問題視したことで世間に広まり、対策を練る動きに繋がったのだと思われます。

 ひとつのものが流行し、定着する。すると、それを受けて似たようなものが生まれる場合があります。ハラスメントもまた同様です。

 私がセクハラの次に出会ったのはパワーハラスメント、いわゆるパワハラです。これも現象自体は昔からあったわけですが、言葉自体は2001年に生まれました。命名者もハッキリしているようで、日本のコンサルティング会社代表取締役の岡田康子さんとのことです。

 私としてはこの辺りから徐々にいろんなハラスメントが生まれてきた印象です。もちろん、他のハラスメントも多くはもともと存在し、それを誰かが名付けただけなんでしょうけれども、とにかく新しいハラスメントがどんどん出てきました。例えば、大学などの教育研究機関で教員が学生にする嫌がらせ「アカデミックハラスメント」、通称アカハラですとか、お酒の絡む迷惑行為「アルコールハラスメント」、通称アルハラですとか、そんな感じです。今ではマタニティハラスメントとかモラルハラスメントとか、いろいろ聞くようになってきました。

 他にもハラスメントはあるのでしょうか。あるとしたら、どんなものがあるのでしょう。気になって調べてみたら、大変なことになってました。今まで登場してきたハラスメント以外にも、こんなハラスメントがあったんです。

スモークハラスメント
スメルハラスメント
レリジャスハラスメント
レイシャルハラスメント
ブラッドタイプハラスメント
エレクトロニックハラスメント
ソーシャルハラスメント
カスタマーハラスメント
ドクターハラスメント
ペイシェントハラスメント
ワクチンハラスメント
パタニティハラスメント
タメぐちハラスメント
カラオケハラスメント
就活終われハラスメント
テクノロジーハラスメント
バルクハラスメント
ロジカルハラスメント
セカンドハラスメント
リストラハラスメント
ジェンダーハラスメント

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%AB%8C%E3%81%8C%E3%82%89%E3%81%9B

 見ての通り相当な細分化が進んでおります。全部知ってる方はいらっしゃるんでしょうか。いらっしゃるとしたらハラスメントの専門家だけなんじゃないかと思います。私はカスタマーハラスメントがせいぜいです。あとは、スメルとかカラオケとか、言葉で何となく意味を察せるものが数点くらいでしょうか。

 パワーハラスメントは和製英語らしいですが、タメ口とか就活終われに至っては完全に日本語がハラスメントに接続されております。どれもれっきとしたハラスメントですから深刻な問題ではありますけれども、名前だけ見るとネタ切れ感が否めません。適切な英単語はなかったのか。もうちょっと探してもよかったんじゃないか。そんな感想が漏れてしまいます。

 対になっているハラスメントもあります。ドクターハラスメントとペイシェントハラスメントですね。ドクターは医者から患者への、ペイシェントは患者から医者への嫌がらせを指します。立場を利用して嫌がらせをする人は医者にもいるし、患者にもいる。そして、トラブルになるんだと思います。

 ハラスメントハラスメントというものもありました。何でもかんでも「これはハラスメントじゃないか」と訴えるハラスメントを指します。確かに、これだけハラスメントが揃っていると、日常の中のちょっとした行き違いも考えようによってはハラスメントに該当してしまいそうです。しかし、ハラスメントハラスメントという名前です。名前がもう自己言及的と申しますか、ハラスメントも来るところまで来てしまった感がございます。

 これらハラスメントの大半は、現象自体はともかくとして、言葉を実際に見聞きする機会はほとんどないと思います。世間に浸透していないと言っていい。

 ハラスメント自体は時に深刻な問題となってしまうものなのに、どうして名前が定着しないハラスメントがあるのか。分かりやすい理由がふたつあると思います。ひとつは範囲が小さすぎて使う機会が限定される点です。例えば、バルクハラスメントです。これはバルク、つまり筋肉量の差でマウントを取る行為を指すようなのですが、深刻な問題とは言え、ジムなどで筋肉を重点的に鍛える人でもないと一生出会わない類のハラスメントです。あまりに専門性が高すぎて、名前を広く知られるのは難しい。もうひとつは、他の言葉でも代用可能なものが多い点です。例えば、ソーシャルハラスメントはSNSでの嫌がらせを指す言葉ですが、その嫌がらせが性的なものだったらセクハラと言ってもいいわけです。何なら、セクハラのほうが知名度が上ですし、そう言った方が他の人から助けてもらいやすいと思います。「ソーシャルハラスメントされてるんです」では、助けてもらうまでに単語の説明を1回挟まなくてはならず、手間がかかるでしょうし。

 人間関係のトラブルは今後も起きるでしょうし、だから世に嫌がらせが尽きる日はひょっとしたら来ないかもしれないですけれども、人はそれをさまざまな手段で乗り越えていくでしょう。ただ、「〇〇ハラスメント」という名前は細分化されすぎて、新しいものが生まれてもなかなか世に出るのは難しくなっているようです。

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