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ジョギングは奇妙な光景と出会う運命にある

 大体決められたコースをジョギングしているんです。なので、馴染みの道ばかり走っているわけなんですけれども、そんな馴染みの道でもたまにいつもと違った光景が出現するんです。

 例えば、私が川沿いの遊歩道を走っていた時のことです。遊歩道は何しろ公道ですから、散歩している人もチラホラいらっしゃいます。そんな方々に会釈をし、間を縫うようにして走るのがいつもの習慣だったんですけれども、やがて遊歩道の少し先に奇妙なものが立っていると気づいたんです。

 その奇妙なものは4人の女性でした。女性自体は奇妙でも何でもありませんでした。奇妙なのは女性のポーズだったんです。全員、日常生活で決して遭遇しないようなポーズをしていたんです。言うなれば、バトル漫画で初登場した四天王みたいなポーズでした。もういつでも不思議な踊りを開始する準備ができているかのようなポーズでもあった。とにかくそんな感じで4人は私に背を向けて立っていたんです。

 あれは一体何なんだろうと思いながら走っていた私、たちまちポージング中の四天王のすぐそばまで来てしまいました。ただ、それゆえに分かったこともありました。四天王の前に、カメラを構えた女性がいたんです。つまり、何らかの撮影をしていた。

 カメラマンの女性が「あ、後ろ」と言うと、四天王はこっちを向き、申し訳なさそうな様子で道を譲ってくれました。そんな四天王によって作られた花道を、私は「すいません」と会釈をしながら通り過ぎた次第です。

 私としては実際に経験したことを書いているつもりでございますが、改めて振り返ると自分でも事実かどうか不安になってきます。そういう経験はもうひとつあります。

 その日もいつものコースをジョギングしていますと、少し先で道路工事をしているのが見えました。どうやら歩行者用の道を作っているようですが、砂利を積んだトラックがガンガン出入りしているし、警備している方も何だか忙しそうです。全体的に慌ただしく、あんまりジョギングで近くを通りたい状況ではありませんでした。

 仕方がない。コースを変更しよう。そう考えました私、工事現場の手前にある丁字路を右に曲がったんです。

 そこで私は立ち止まりました。前方から着ぐるみの集団がこちらに向かってノシノシ歩いてきていたんです。着ぐるみはウサギさん、ゾウさん、ライオンさん、ニワトリさん、パンダさんなど、様々な動物を模していました。人間さんも2名ほどいらっしゃいまして、私が恐る恐る近寄ると「歩行者通ります」と言って視界の狭い着ぐるみたちをフォローしています。

 あとで調べたところ、どうも近くでイベントがあったようで、控室から会場に向かう途中だったようです。当然、着ぐるみたちはイベント前ですから、すれ違う私に手を振るわけでもなく、ただ淡々と会場に向かって歩いておりました。振り返ると、杖を持った高齢の男性が口を開けたまま着ぐるみたちを見つめて固まっておりました。お気持ちはよく分かります。

 どんなクジだって引き続ければいつか当たりをゲットしてしまうように、どんなジョギングコースだって毎日のように走り続けていればいつか特殊な光景に出会ってしまうようです。ジョギングの習慣がある方、全員に共通する運命だと思っています。

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