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ロボ漫才の現在とこれから

 以前、M-1の予選1~2回戦について書きましたが、ちょこちょこ出てきているのがロボットや人工知能といったマシン系の参加です。

 私もロボ漫才をいくつか実際に拝見しましたが、「面白いのか」と問われれば、個人的には「今のとこそんなでもない」と答えざるを得ません。実際、大半のロボット漫才師は1回戦敗退、残りも2回戦で全て姿を消しています。ということは、漫才の機械化・AI化はまだまだ黎明期といったところでしょう。

 では、どの辺りが問題なのでしょうか。ロボ漫才を見てもやもやしていた部分を漫才師「金属バット」のおふたりが動画でうまく指摘してらっしゃいましたので、その動画を参考にしつつ、ロボ漫才の課題をいくつかあげてみました。以降に出てくる金属バットの会話は次の参考動画からの引用であり、敬称略で書いてあります。読みやすさの観点から発言の細部を変えてありますので、ご了承ください。

【参考動画】

1.マシントラブル

 やれロボットだ人工知能だ言ったところで、機械であることに変わりありません。機械である以上、機械なりのトラブルに見舞われます。ましてや、ロボやAIは精密機械です。

【参考動画 6分16秒辺りから】
友保「俺らがんなんかトリの予定やって、ほんまは、1回戦の。なんか急に袖で『すいません、金属さんトリ前になりました』言うて。で、普通下手〈しもて〉入り上手〈かみて〉はけやのに『下手入り下手はけでお願いします』言うて」
小林「それよう分らんかったな」
友保「『なんすか』言うて。『あのすいません、金属さんの後にロボットさん出ることになって』言うて。『ああそんな人いてはんのや』言うて。急遽出はんねやなって」
小林「俺もそう思てんな、『師匠かなー』思うて」
友保「そうそうそう。で、ワーって(舞台に)出てネタして『あ(りがとうございま)したー』で帰ったら袖にロボット2台待ってた」

 金属バットのふたりが言っているのは「あいちゃんとゴン太」だと思われます。甲南大学の学生が制作した人工知能搭載型漫才ロボットです。

 「あいちゃんとゴン太」のネタは実際に見たことはありませんけれども、同じくロボット漫才コンビの「ダブルペッパー」は拝見しました。その際も、本来はトリではなかったのに当日になって急遽トリに変更されていました。理由はマシントラブルだったと記憶しています。人は人で当日になってスケジュールの都合により出番順が変わることはありますけれども、ロボットもまた同様のようです。ただ、会場に来れば何とかなる人間と違い、ロボットは会場に来てもトラブルの可能性があり、油断できません。

2.漫才に適さない形状

 どうにか舞台に出られても、ロボット漫才師には別の問題が降りかかります。

【参考動画 7分4秒辺りから】
小林「センターマイクが下がらへんねんな」
友保「そう、センターマイクここまでしか下がらんかった」
小林「で、ロボットここや」(と言ってしゃがむ)
友保「ウーハー積めよな」

 ロボットがマイクの想定以上に低かったようです。ボケのゴン太さんが特に低く、「ウーハー積め」とのツッコミからも、マイクで声が拾いづらかったと推測されます。

 他のロボットも一般的な人間より小さいものばかりのようです。その理由は主に安定性だと思われます。背が高いと倒れやすい。精密機械ですから転倒ひとつで漫才が続行不能になりかねません。

 ひょっとしたら運びやすさも考慮されているでしょう。今のところ、自宅から会場までずっと移動できる自走式の漫才ロボットは開発されていないようです。どこかの段階で人による輸送が必要となる。そのためには当然、小さい方が楽になります。

 小さい方がロボットとしてはプラスになるも、漫才としてはマイナスになる。やっぱりウーハーを積むような解決法がベストなのでしょうか。しかし、そうすると今度はウーハー分の重量を考える必要があり、とまあロボットはロボットでいろいろ大変なようです。

3.ネタのクオリティ

 M-1グランプリに勝ち上がる条件は「とにかく面白い漫才」であり、これはいい漫才の条件でもあると思われます。ロボットだろうが人工知能だろうが、漫才をするとなればこの条件を満たす必要が出てきます。しかし、ここでも問題が出てきます。

【参考動画 7分12秒辺りから】
友保「何言うてんのかなー思うたらな、なんか人工知能が漫才作るみたいな」
小林「そうそうそう」
友保「何なんやろ言うたらウィキペディア読み合ってるだけ」
小林「ほぼほぼ知識を(言ってるだけ)」
友保「そう。『何でやねん、それは何年何月に生まれた、何とか市の何とかの何とかさんやないかい。何でやねん』みたいな」

 そもそもネタがまだまだだという、何気に致命的な問題がロボット漫才業界にはあるようです。「あいちゃんとゴン太」はその場でネットから情報を得て、漫才のネタを作り上げていくシステムのようで、それを構築したのはすごいのですが、笑うかどうかはまた別の話ということです。

4.客が慣れてない

 ロボットの漫才はM-1グランプリですら圧倒的な少数派であり、世間の方々の大半は恐らく存在すら知らないと思われます。だからこそ起こる問題もございます。

【参考動画 7分45秒辺りから】
友保「やっぱ分からへんやん。お客さんもロボットがボケてんのなんか初めてやから、ほんま笑いにくいやん」
小林「そやな」
友保「面白いこと言うても笑われへんやん」

 つまらない以外の理由で笑えない時がある、というようなことを私も以前にnoteで書きましたけれども、それと同様の現象がロボット漫才でも起きていました。現状ではむしろロボットのほうが深刻です。同じギャグをするにしても、親しみのある相手のほうが笑いやすくなるのに、今は全人類がロボットの漫才に慣れておらず、親しみ以前の段階です。人々が慣れるためにはロボ漫才が広く知られる必要性が出てきます。

5.人工知能が漫才に慣れてない

 漫才はどんなネタを考えるかも重要ですが、ネタをどのように表現するかもまた重要になってきます。人間の漫才師にとっても難しいところですが、ロボットにとってもまた大きな問題として立ち塞がります。

【参考動画 9分13秒辺りから】
小林「AIにやらさんかったら別に良かったけどな」
友保「そうよな。打ち込んでな、やりゃ良かったんやけど」

 人工知能がネタを作って話すにも、ネタが面白いかどうかの判断基準がキチンと備わっていないように思います。ひとつの対処法としては友保さんがおっしゃったように事前に決めたセリフを打ち込む方法があります。ちゃんとしたネタを書けるならば、現状それが一番手っ取り早い。

 また、慣れた漫才師になると、同じネタでも相方との呼吸や観客の反応によって内容を微妙に変え、より笑ってもらえるように調整します。人間ですら難しいこの調整、ロボットとなれば現状ノウハウがほとんどないと言っていいでしょう。現実的な代替案としては、人間とロボットが組み、人間が調整役になることでしょう。事前に決められたセリフに対して人がボケたりツッコんだりする。要は陣内智則さんですね。ロボットを扱ったネタがないか公式YouTubeを探したところ、「AIスピーカー」というネタを発見しました。

 将来的には人工知能がネタを自動生成する時代が来るのでしょうか。人工知能には機械学習や深層学習といった独自の学習法があり、ジャンルによっては一定の成果をあげているようです。より観客が笑ったものをいい漫才だと教えた上で膨大な漫才の動画を学習させたりすればどうにかなるのでしょうか。人工知能とお笑いの両方に詳しい方の登場を待ちたいところです。

6.終わりに

 金属バットの動画に沿ってロボットと人工知能がする漫才の問題点を簡単にあげてみました。漫才ももちろんそうでしょうが、ロボットもまた発展途上の業界であり、漫才ロボットに至ってはまだまだ多少の実証実験がおこなわれている程度の段階です。

 とは言え、技術の進化は時にすさまじいものがありますから、気づいた時には2体のロボットが舞台で爆笑を取っているかもしれません。

 今回はこんなところです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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