見出し画像

挫折の果てに小さなRPGを完成させた話

 何かを続けるのは大変です。つらく大変なことはもちろん、楽しいことでさえ大変なんです。

 RPGツクールというシリーズがあります。画像や音楽、戦闘システムなど、あらかじめ用意されたものを組み合わせてオリジナルのRPGが創れるというゲームで、今年には最新作が出る予定なんだそうです。

 私が中学生をしていた頃、RPGツクールが初めて家庭用ゲーム機で発売され、かなり流行していました。当時は子供たちの間でRPGというジャンルはすっかり定着し、ノートに自分だけのオリジナルRPGを描いて楽しむ子もいました。そんなところに出てきたのがRPGツクールです。自分たちの想像をいよいよ形にできる。色めき立たないわけがありません。

 しかし、多くの子供たちは作品をひとつも完成させませんでした。絵も音もシステムも簡単に使えるようになっているにもかかわらず、それでも面倒くさいんです。パーツを組み合わせて町を作る、町民を配置する、登場人物のセリフを考えて文字を入力する。キャラクターから武器、道具、魔法や必殺技に至るまで、名前からステータスまで全部決める。もちろん、ストーリーも考えなければなりません。中学生がひとりでやるにしては手間が多いんです。いや、大人がやったって大変でしょう。

 結局、多くの子供は最初の町を完成させるかさせないかくらいの段階で挫折したり、主人公が一歩も外に出ないまま速攻でエンディングを迎えるゲームを創って満足したり、味方も敵も武器も魔法もとにかく下品極まりない名前にして目も当てられない戦闘シーンを創っては友達と鑑賞して馬鹿笑いしたりと、RPGツクール制作者の意図とは完全に異なる遊び方をしていました。どれだけ創りやすくお膳立てしても、よっぽどコツコツできる人でもない限りRPGを創るのは大変な作業だったんです。

 私もまた挫折を繰り返した子供のひとりでした。当時はコツコツ作業を進めるのに苦手意識を抱いていた点は確かにあります。ただ、別の要因が大きく働いたせいだと今になって思います。

 例えば、RPGツクールが流行した当時、途中まで作っては友人と見せ合うことをしていました。私は最初の町しか作っていなかったのですが、「みんな似たようなもんだから」と言われ、自分の作品を見せることにしました。

 当時のRPGにおける最初の町は、ゲームの世界に慣れてもらうため、基本的なシステムを説明したり、これから何をしたらいいかを話してくれる町民がいることが多かったため、私もそれにならった町を創っていました。とりあえず、町の長老に話しかけると、次にするべきことを説明してくれるようにしたんです。それを知った友人たちは嬉しそうにこう言いました。

「やっぱ長老だよな」
「だよな」

 別に悪く言われたわけじゃないんですが、なぜかこの言葉がものすごく恥ずかしかったんです。自分なりに考えて配置した長老がベタな表現だった。多分、そこが恥ずかしかったんだと思います。今じゃ「別にいいじゃん」と思うんですが、その日以来、RPGの創作をやめてしまいました。

 それからしばらくして、RPGツクールの新作が出ました。絵も音も前回より綺麗で豊富になり、制作しやすいシステムになっていました。失われた情熱が蘇った私は、友達の品評会は参加せず、ひとりで黙々と創っていました。しかし、創れば誰かに見せたくなるのが人の性というものです。友人に見せるとまた「やっぱ長老だよな」みたいな恥ずかしい言葉を投げかけられそうだったので、母親に見せてみました。母親は私の創った最初の町を見てこう言いました。

「どの家にもトイレがない」

 当時は表現やデータ容量の限界もあってか、トイレのある家を出している作品は少数派でした。ドラクエやFFなどの有名シリーズもトイレなしの家が大半だったと記憶しています。トイレがストーリーに関係なかった点もトイレなしの家が乱立した一因でしょう。

 他にも母親は「宿屋の割にベッドが2つしかない」「町という割に家も人も少ない」「というか、人はそんな意味もなく道端をウロウロしない」と、当時のRPGにそれを言っちゃおしまいよ、というような指摘をガンガンしてくるんです。私がドラクエをしてても母はそんな指摘を1度もしてこなかったのに、何でこんな時に限って容赦なきツッコミマシーンと化したのでしょうか。理由は不明ですが、そのツッコミ事件を境に私の制作意欲は急激に減退、またしても最初の町を創っただけで挫折をしてしまいました。

 人にアドバイスは必要です。でも、人のためになるアドバイスをするのは本当に難しい。母親は私にアドバイスをしてくれたのかもしれませんが、私にはうまく活用ができませんでした。

 更にRPGツクールの新作が出た時のことです。高校生になっていた私、少しは知恵も根気もついてきました。私の周りに適切なアドバイスをできる人はいないと割り切り、完成まで誰にも見せないことにしました。

 もちろん、他にも工夫はしました。壮大なRPGを創ろうとするから挫折しやすくなるのだと思い、数時間で終わるような短くて簡単なRPGを創ることにしました。また、RPGのアイデアや創ったものを記録するノートを用意、この頃からセリフなどに漢字を使えるようになったので、専用の辞書を買って活用しました。

 どうせ締め切りもないんだからと自分なりのペースでのんびり続けて数年、ようやく小さなRPGが完成しました。順調にやれば3時間程度で終わるものでしたが、制作時間は250時間を超えてました。とりあえず、完成させたゲームは友人ふたりにやってもらい、ちょっとした感想をもらいました。それ以外の役には立っていませんが、曲がりなりにもエンディングまで創れたので、私としては満足しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?