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題名読書感想文:04 言葉と言葉の親和性が強すぎたがゆえに

 親和性がありすぎて妙な現象が起きたりするんです。赤い色を塗った隣に青色を塗ったら、赤い絵の具がまだ乾ききってなくて青色と混ざり合い、徐々に紫色に変化していくかのようです。「しまった、失敗だ」と思うのか、「意外といいじゃん、紫」と思うのか、はたまた気づかないか見て見ぬふりか。どんな反応をするかは時と場合によると考えられます。

 言葉でもたまにある現象のようです。ですから、書籍のタイトルでも起こる現象なんです。例えば、こちら。

 注目点は「クラシックソムリエ」です。クラシックとソムリエ、どちらも優雅な印象を受ける言葉でございますが、このふたつを繋げた結果、間に「クソ」が生まれてしまっているんです。

 いや、もちろんですね、クラシック関係者もソムリエ関係者も、毎日のようにしてると思うんですよ。それにクラシック界でもビッグネーム中のビッグネーム、モーツァルトがそっち系の迷言を遺しているのは周知の事実です。

さあ、お休み。花壇の中でバリバリッとウンコしなさい。では、さよおなら。ありゃっ、お尻が火のように燃えてきたぞ! こりゃ何事だ! きっとウンコちゃんのお出ましだな? そうだ、そうだ、ウンコちゃんだ。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)

偉人名言迷言事典(笠間書院、2021)

 ちなみに、この文章の出典はモーツァルトが22歳の時に19歳の従妹へ送った手紙だそうです。ただし、これ以上、このエピソードに触れると話が変な方に逸れそうなので戻します。

 「クラシックソムリエ検定」という名前を考えた人も、予想外のうんこを生み出そうとしたわけではないと思うんです。ただ、クラシックとソムリエの妙な親和性に気づかず、結果的に思わぬ形でうんこが生まれただけでしょう。そうなんです、この手の親和性は近づけてみて初めて気づく場合が非常に多い。

 クラシックソムリエの場合は文字の親和性により起きた現象のため、見た目にも分かりやすいです。しかし、言葉はご存じの通り見た目だけではありません。それぞれに意味があり、イメージがあります。そして、そっち方面の親和性が生じる場合もございます。

 例えば、「トランプ解体新書」です。

 アメリカ大統領を経験したことにより、ワールドワイドにお騒がせイメージがついたトランプでございますけれども、このタイトルだとなんか前アメリカ大統領が三枚におろされたような、そんなタイトルにも読めてしまいます。

 「解体新書」はもちろん、江戸時代に出版された例の医学書から来ているのでしょう。

 しかし、「解体新書」は医学書ということで、人の身体を分解した図が普通に出てきます。更に「解体」という単語も相まって、直前に人名が来ると、その人をバラバラしたかのような意味に受け取られる可能性がグッと上がってくるわけです。特に存命の方の名前が直前に来てしまうと、ほのかに事件の香りが漂ってきます。それがアメリカ大統領経験者ともなれば、漂ってくるのは歴史的大事件の香りです。更に、歴代アメリカ大統領の中でもお騒がせ度合いの高いトランプさんともなれば、余計なことをあれこれ考えてしまうタイトルになり得る。そんなポテンシャル満載のタイトルが「トランプ解体新書」でございます。

 こんなのもあります。「感染症道場」です。

 こちらは専門家が感染症について学ぶ本であり、トレーニング的な意味合いでタイトルに「道場」という言葉をつけたのだと思われます。ポップな表紙からも、より多くの人に読んでもらえるよう、敢えて砕けた表現をしていることがうかがえます。

 ただ、「感染症」と「道場」を繋げてしまったゆえに、こうも読み取れるわけです。「『感染症道場』とは感染症を駆使した武道を習うところではないか」と。平然と書きましたけれども、「感染症を駆使した武道」って何でしょうね。殴り合ったり組み合ったりしながら、菌やらウイルスやらをバラまいたり、こすりつけたり、注入したりするんでしょうか。非常に危険な武道です。ヤバい特殊部隊でもないと体得できないに違いない。

 最後は警察官向けの書籍です。警察官だって新米の時もあれば、何らかの勉強が必要な時もあるわけです。だから、当然の帰結として、世の中には警察官向けの書籍が発売されています。警察官の方に買ってもらうことを前提としているため、タイトルに「警察官」という言葉が入る場合がございます。例えば、次のような感じですね。

 もちろん、警察官以外の方が読んでもいいのでしょうけれども、敢えてタイトルでターゲットを限定するという方法は有効なようで、書店に行くとしばしばその手のタイトルと出会います。

 そんな感じで出会った書籍が「警察官のための剣道」です。

 タイトルの形としては先ほどの「刑法講義」と同じなんです。しかし、なぜか「剣道」が来ると、警察関係者だけに脈々と受け継がれている、門外不出の剣技が書かれているのではないかと思ってしまうんです。手錠を使った特殊な戦い方とか、「桜田門斬り」みたいな必殺技とかがあるんじゃないかと。

 こうやって書いていることはすなわち、単語と単語が次々とくっついているわけで、中には親和性によって思いもよらぬ意味にとらわれる形になっているのでしょう。当然と言えば当然ですし、不思議と言えば不思議です。

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