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トークのもらい事故

 毎日のように頭の悪い発言をしておりますと、幸いにも「また星野が変なこと言ってる」みたいな感じで笑ってもらえるようになりました。そうすると、たまにまぐれ当たりでものすごく笑ってもらえる時もあるんです。

 その日も職場で業務連絡の合間に意味不明なワードを言ってみたところ、まぐれでみんなの笑いツボに激ハマりしてしまい、仕事中だというのに場を盛り上げてしまいました。たまたまよその部署の上司が近くにいたんですが、幸いにも怒られずに済みました。

 とは言え、まぐれはまぐれです。以降の私は普段通り、よくてややウケ、悪ければ血圧がゼロになるくらいスベり散らす日々を送りまして、場を沸かせたあの頃の記憶などあっという間に遠い彼方に追いやられてしまいました。

 それからしばらくたった日のことです。私がデスクで事務仕事をしておりますと、先ほど書いたよその部署の上司がよその部署の誰かと近くで話をしているのが見えました。よその部署の上司は私をチラ見し、以前に見た私の大まぐれホームランワードを思い出したのでしょう。突然、その時とまったく同じワードを言ったんです。

 しかし、笑いは水物です。昨日ウケたものが今日ウケるとは限らない。現にその時も一瞬、オフィスの音が全てピタッと止まったくらい場が凍りまして、1秒後、何事もなかったかのように再び時は動き出しました。

 よその部署の上司が激烈にスベった理由はいろいろ考えられると思います。例えば、よその部署は冗談を言うタイプではありませんでした。何なら真面目で仕事ができる人でして、普段から知能指数の低い話ばかりする私とは対極の位置にいます。そんな人が突然、意を決したようにウケを狙っても、まあほとんどうまくいかないと思います。本来のキャラクターに合ってないし、何より慣れてない。

 また、前々から言おう言おうと思っていたことはなかなかウケない傾向にあります。これは様々な芸人が異口同音に主張しているものです。恐らくは、言いたい気持ちが強すぎて話の流れを無視してしまい、その違和感がウケを鈍くさせてしまうのでしょう。自分の中で「これは面白いぞ」という期待値が無駄に高まってしまい、自分で自分のハードルを上げてしまった可能性も充分に考えられます。

 それはともかく、困ったのは私です。最も心に傷を負ったのはスベった張本人であるよその部署の上司でしょうが、なんか私まで無理やりスベらされた気分になったんです。私はよその部署の上司の会話を聞いていただけなんです。しかも、別に聞こうとして聞いたわけじゃなくて、普通に仕事をしてたら向こうが勝手にやってきて勝手にスベったんです。

 なんか、よその部署の上司が私から車をパクって暴走して壁に激突し、その衝撃で飛び散った破片が私の頭に突き刺さったような、そんな理不尽なもらい事故に遭った気分になりました。生きていれば何かが起こる。改めて私はそう思い知った次第です。

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