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賞味期限チャレンジ

 食べ物にあまり頓着がないんです。「こんなうまい高級肉を食べたらいつもの肉に戻れなくなる」なんて言う人がたまにいらっしゃいますが、私に限って言えば全然戻れます。そりゃあ、良い肉はうまい。でも、いつも食べてる肉だってうまい。全く問題ありません。

 何なら、腐ってなければ賞味期限が多少過ぎようと全然大丈夫です。ですから、たまに友人から賞味期限が過ぎたインスタント食品やお菓子をもらうことがあります。「マジで全然気にしないから」と事前に言っておいたんですが、それでも友人はどこか不安げに「まずかったら捨てていいからね」と言うんです。そんな友人の前で私が湿気たおせんべいを平らげると、友人は口をポカンと開けて呆れた様子でした。味に問題はなかったと私が言っても、友人の呆れは止まりませんでした。

 それからも友人から賞味期限が過ぎた食料をもらい続けています。別に生活に困っているわけではありません。ただ、捨てるなら食べるというだけです。食費も浮きますからね。

 そんな生活を続けているうち、友人は私に賞味期限切れの食料をあげるのに慣れてきたようです。慣れてくるとどうなるか。友人は無意識のうちに私の限界を試すようになって参りました。最初は賞味期限から数ヶ月経ったものがせいぜいでしたが、最近は年単位の逸品がゴロゴロ舞い込んできます。面白いもんで、そうなって初めて気づくものもあるんです。

 最初に気づいたのはお麩でした。味噌汁にでも入れて食べてくれと言われて古いお麩をもらったんです。その日の晩、言われた通り味噌汁に入れて食べたんですが、なんか味に違和感があるんです。お麩の味じゃない。腐ったような不快感はなく、吐き気を誘うような味ではないんですが、思っていたお麩と全然違う味で、端的に言えばまずいんです。敢えて言い表すとすれば、小学生の頃に間違って食べた粘土や絵具に近い。賞味期限を見たら4年前になっていました。これは食べない方がいいなと判断して、そのまま捨ててしまいました。

 賞味期限を過ぎて5年目のインスタントラーメンも似たような味でした。この時は既ににおいが違いまして、マジでほのかに絵具の香りが漂っています。一応、お湯を入れてみたんですが、麺にこしがなくダルンダルンで、試しに食べてみましたところ、やっぱり絵具と粘土を足して10倍に薄めたような味がするんです。さすがにこれもそのまま捨ててしまいました。

 面白かったのは、いわゆるゼリー飲料です。これまた賞味期限が1年以上切っていたのですが、上部は完全に液状化していて味もほとんどしなくなっていました。逆に底部はまだゼリーらしさがしっかり残っていて、味もちゃんとしたゼリー飲料を保っていました。この事実から、蓋に近い入口から物質が変化していったのだと推測できます。私、非常に興味深く食させていただきました。

 いやいや、興味深くなっている場合ではありません。私は食べられるならばという条件つきでもらっているわけでありまして、どれだけ古い食料を食えるかチャレンジをしているわけではないのです。

 味が変わってたやつは「すいません、さすがに古すぎるっす」と友人に謝りました。どういう謝罪なのか自分でもよく分かりませんでしたが。

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