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幽霊はにおうな

 最近、幽霊のにおいがあるとの主張を耳にしたんです。

 「見える」とか「聞こえる」とか、「触られた気がする」とかだったら怪談で昔から聞いてきましたけれども、においなんです。死者を連想させる線香のにおいは、ごく稀に怪談で耳にした記憶はありますけれども、においメインの怪談は記憶にありません。どうしてでしょうか。

 「幽霊から遠い」というのが原因かもしれません。実際に幽霊が見えれば「あ、幽霊だ」となりますし、誰もいないのに人の声が聞こえれば「お、幽霊かも」と推測できますし、触られた感覚があれば「ん、幽霊か?」と疑問に思える余地がある。でも、誰もいない道端で線香のにおいがすると、仮にそれが幽霊由来だったとしても、「誰か仏壇に線香を供えたな」と思うだけでしょう。幽霊を連想しづらいんです。

 そもそも、幽霊がにおうとして、どこの何がにおっているのでしょうか。人間は様々な場所から様々なにおいを発する生き物です。脇なのか足なのか口臭なのか。生前に愛用していたシャンプーのにおいなのか、ガンガン吸いまくって身体に染みついた煙草のにおいなのか、毎日つけすぎて適量が分からなくなってしまった香水のにおいなのか。それとも、幽霊になって初めてゲットしたにおいなのか。そのにおいは幽霊のどこからしているのか。気になるポイントが多すぎるんです。

 そのせいもあるんでしょうか。においは幽霊との相性もあんまりよくなさそうです。幽霊が実在するかどうかはともかく、その手の話は怪談として語られることが大半です。でも、幽霊の脇のにおいを嗅がされた話なんて、どう考えても笑いの要素が入っている。怖さを打ち消しかねないんです。じゃあ、笑い話として披露すればいいのかというと、その割には恐怖要素が多すぎる。中途半端で活躍の場が見出しづらいんです。だから、今までにおい怪談が少なかったんでしょう。

 その割には、他の現象よりはた迷惑になる可能性を秘めているのもにおいだと思うんです。例えば、幽霊の口がガス臭かったら大変です。お口のケアがなってない幽霊がそばを通りすぎるたび、ガス漏れしていないか確認しなければいけない。ガス検知器が反応したら大ごとです。

 幽霊のにおいがどんなもんなのか、試しに検索したら「ドブのにおい」とか出てきました。これはこれで迷惑です。もし、部屋でドブのにおいがしたら、どこかで何かが腐っているのかもしれないと思い、部屋をひっくり返すような大掃除をするでしょう。でも、原因が分からない。何度掃除しても、業者を呼んでもドブ臭さは取れない。原因が分かりづらい分だけ質が悪いです。こんな幽霊が出るくらいなら、1日に1回、部屋の隅に黒い影が見える幽霊のほうがまだマシです。

 「幽霊はにおうな」という一方的な結論になりそうなので、本日はこの辺で。

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