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題名読書感想文14:付加価値の波はぬり絵にも到達する

 本の題名だけで感想を書いてみる、堕落を極めた読書感想文を最近は頑張ってます。頑張って堕落しているんです。

 今回のテーマは「付加価値」です。それまでにも存在していた何かに新しい価値をくっつける行為を指すようです。例えば、ポップコーンと言えばおいしいお菓子でございますけれども、「実は食物繊維が豊富で身体にいいんですよ」なんて価値を新たにくっつけて売り出すわけです。そうすると、常日頃から食物繊維を食らいたくてたまらないタイプの方々が、「何、ポップコーンってそうなのか。そりゃあ、食らいつくさねばならぬ」と思い立ち、新たな顧客となるかもしれない。

 そんな感じで売り上げと繋がりやすいためか、「付加価値」はビジネスの世界で比較的よく使われる言葉のようです。もちろん、真っ当なビジネスをしたいなら口から出まかせに価値をくっつけていってはダメで、ちゃんとした根拠を示す必要がございます。

 この付加価値、結構いろんなところで見るんです。身近な場所では食品がそれで、先ほどのポップコーンもそうですが、スーパーに行けば商品が「実は僕、健康なんすよ」「自分、こんな栄養素あるんすよ」とパッケージで次々に語りかけてきます。何なら、実際に新しい栄養素を加えて、その分ちょっとお高くして販売するパターンもある。不健康に暮らしたい人なんてまずいませんから、そうやって販売の促進を狙う戦略なのだと思います。

 ところで、本の中には「ぬり絵」というジャンルがございます。内容のほとんどをぬり絵に振り切った書籍でございまして、本の中で最も書き込みされてるジャンルと言ってもいい。書き込みというか、塗ってますし。

 先ほど、食品には健康という付加価値の波が荒れ狂っていることを書きましたが、その付加価値の波がぬり絵業界にも到達しているんです。例えば、「ぐっすり眠れる不思議なぬり絵」です。

 ぬり絵がヤクルト1000みたいなことになってたんです。

 他にも「自律神経を整えるぬり絵」というものがございます。

 「よく分からないけど整えた方がいい神経」でお馴染み、自律神経に好影響を与えるぬり絵でございます。

 とにかく、こんな感じでぬり絵に付加価値をつけて、健康を欲する方々に「どうすか、買うっすか」と売り込みをかけているんです。

 ちなみに、ぬり絵の中では「マンダラ」が一大勢力として君臨しているようです。マンダラとはもちろん曼荼羅でございまして、もともとはいろんな仏様が集まる光景を図にしたものだそうです。

 それが次第に単純化され、図形の集合体みたいなものもマンダラと呼ぶようになったのだと推測されますが、その図形の集合体がぬり絵と相性が良く、結果としてぬり絵界を席巻しているようなんです。

 上記の本は「マンダラ蛇塗り絵ブック」というわけで、なぜか蛇が紛れ込んでいますが、それくらい「ぬり絵はマンダラ」なんだと思います。

 そんなマンダラぬり絵にも付加価値の波が届いています。一例として「自律神経が整う! クスリ絵マンダラぬりえ」がございます。

 人気だったのか、続編「もっと自律神経が整う! クスリ絵マンダラぬりえ」もございます。

 特性シールという新たな価値もくっつけての続編です。

 ここまでは主に自律神経への効果を期待したぬり絵でございますけれども、他にも健康志向のぬり絵は存在しています。例えば、「目がよくなる魔法のぬり絵」です。

 ぬり絵は一点を集中する行為ですから、ひょっとすると視力は落ちてしまうのでは。そんな不安を先回りするかのように、このぬり絵は「むしろいいですよ」との価値をくっつけてきます。

 脳に影響を与えるパターンもございまして、その名も「脳がみるみる若返るぬり絵」です。

 こちらはシリーズ化されており、様々なぬり絵で脳年齢の逆行を狙う形となっています。

 更には「視力を回復し脳も整える和のぬり絵」という、ふたつの効果を狙ったものもございます。

 商品に付加していい価値は別にひとつじゃなくていいわけですから、こういうタイトルも出てくるのは至極真っ当と言えます。

 これまでにご紹介したぬり絵は、どちらかと言えば大人を対象にしたものとなっています。ぬり絵は、やろうと思えば大抵の人ができる行為ですから、お子さんを対象にしたものが多いですが、そこに一石を投じ、「大人の皆さんもどうですか」と売り込んでいる。大人は子供以上に健康への興味が強いですから、健康系ぬり絵」が販売されているのでしょう。

 ただ、違った方角から大人の販売意欲を狙ったものもございます。それが「大人の塗り絵: 死者の日の30の絵」です。

 ぬり絵のタイトルに「死者」が忍び寄ってくるとは思いませんでした。ある意味、健康とは真逆の方角と言えます。

 もっと突き進んだものですと「大人の血まみれの悪夢のための塗り絵」というタイトルの本もございました。こちらの商品はアマゾンでも「大人しか買っちゃダメ」となっていましたのでリンクを貼るのは差し控えますけれども、ゲームならともかくぬり絵で年齢制限がかかるとは。一体何の色を塗らされるんでしょうか。怖いもの見たさを刺激するタイトルです。

 大人のぬり絵もまた深い世界なのだと思い知りました。

 学問と結びつくぬり絵もございまして、軽く見たところ、少なくとも生物学とは相性がいいようです。動物のイラストに色を塗る。ザ・ぬり絵といった感じですね。ぬり絵のベタを表してると言っていい。

 しかし、どこの世界にも特殊な事例は存在します。生物ぬり絵も例外ではありませんで、「恐竜 骨ぬりえ」というものが存在します。

 「骨なんだから白く塗ればいいんじゃないの」と思いましたし、「紙が白ければ塗る必要もないじゃん」とも思いました。それはぬり絵素人の発想なんでしょう。「『骨だから白』という固定概念を捨てなさい」とのメッセージが込められたぬり絵なのかもしれません。そう言えば昔、美術の先生から「髪だからって黒でベタ塗りするのは違うぞ。よく見ろ、髪だって場所や光の加減でいろんな色が見えるだろ。それを塗り分けろ」と言われたのを思い出しました。そういうことなのかもしれません。

 こんなぬり絵もあります。「ぬりえでバードウォッチング」。

 ぬり絵とバードウォッチング、まさかの組み合わせです。タイトルだけでは一体どういうことなのか分からない点が多すぎますが、それは実際に買って塗って完成させれば解決する疑問だと思われます。

 出版社は当たり前のように「日本野鳥の会」でございます。「日本野鳥の会」が出版事業を持っていたことを知る1冊でもあります。

 生物学とぬり絵の融合、その極みみたいな本もありました。「アートぬり絵 バイオアート入門」です。

 アートもロクに理解できていない私へバイオを付け足されてもますますよく分かりませんけれども、生き物がアートの題材となること自体は非常によくあると申しますか、王道と言っていい状況です。何なら人も生き物ですから、もう超王道ど真ん中でございます。他にも科学的な研究を目的とした植物の絵「植物画」も古くから存在しています。

 バイオアートはそれこそ「芸術と科学の境界にある新しい芸術活動」とのことで、「科学の方法や技術を使って」おこなわれているようですけれども、そんな新しいジャンルが生まれる下地がずっと存在していたのだと思われます。

 恐らく、全く異なる付加価値がこもったぬり絵は他にもあると思います。そう思わせるだけの深さが、今回のぬり絵だけでも感じられました。

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