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初めての殺虫

 部屋に置くタイプの殺虫剤がありますよね。スイッチを押すと殺虫成分が煙のように出て、家主が室外へ出ている間に部屋の隅に潜んでいる虫まで駆除できる。一定時間、部屋に入れなくはなりますが、室内の虫を一掃できるのは大きい。スプレー式殺虫剤を片手に虫を追いかけ回す手間もありません。売れるわけです。

 と書いてはいますけれども、実は私、置くタイプの殺虫剤を使ったことがなかったんです。殺虫中の小一時間、外で時間を潰さなければいけないと思うと、どうにも面倒でなかなか手が出せなかったわけです。

 それが何の因果か、先日、置くタイプの殺虫剤をたまたまもらったんです。特に虫に悩まされているわけではありませんが、せっかくもらったのならば使ってみようと思い立ちました。殺虫している間は買い物にでも行っていればちょうどいい。

 もらった次の日、早速私は使いました。説明書通りに部屋の真ん中へ殺虫剤を置き、スイッチを押します。なるほど、確かに上部から白い殺虫剤が煙のように出てくる。感心している場合ではありません。家主はサッサと外へ退散です。

 シューという音を背中で聞きながら玄関へ急ぎますと、なんと靴がありません。そこで思い出しました。ちょうど昨日、玄関の掃除をするために靴を全て靴箱へしまったんでした。白い煙が迫る中、靴箱を開けます。焦りでいつもの倍は時間がかかりましたが、どうにか靴はゲットです。

 さあ脱出だとドアを開けて外に出ると、今度は家の鍵をもっていないことに気づきました。東京で鍵をかけずに小一時間はさすがに相当な勇気が要ります。既に室内の空気は白く濁っていましたが、観念した私は口を押えて部屋に突撃し、どうにか鍵をゲットしました。

 やれやれとばかりに外に出て時刻を確認しようとしてスマートフォンを持ってないことにも気づいてしまいました。スマホがないと電子決済ができない。もう一度入るのか。本日2度目の観念です。口を押えて白い部屋に突入しました。

 なるべく部屋の空気を吸わないようにはしましたが、焦っているせいかしっかりと呼吸していました。密閉された室内は変なにおいで充満していました。これが殺虫成分だろうと容易に推測できましたが、スマホを持ち出さないわけにはいきません。バタバタしつつもようやくスマホをゲットし、我が家はようやく本格的な殺虫がされるようになりました。

 人間、誰しも初めてのことはあり、そして初めてだと大概は何らかの失敗をするものです。だから、初めてやって失敗した人に私は「最初はそんなもんよ」などと、変に気にしないように声をかけてきたつもりです。

 しかし、私の初めての置く殺虫剤は、靴を出すのに手間取り、鍵を忘れ、スマホも忘れた。初めてにしてはあまりにもグダグダです。グダグダのグダと言ってもいい。

 こんなレベルの自分に「最初はそんなもんよ」と言って聞かせていれば、そりゃあ他人の失敗にも寛容になりますよね。殺虫を通じて虫とは全然関係ないことを学びました。

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