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題名読書感想文:17 独特な表現か、それとも天然か

 本の題名だけ読んで感想を書くという、薄っぺらい読書感想文「題名読書感想文」を何となく続けております。

 今回のテーマは「誤字にも見える表現」です。

 国語のテストが存在していることからも、文章には正しいものとそうでないものがあるようです。しかし、その境界線は曖昧です。と申しますのも、従来は間違っていたはずなのに、時代の流れと共に正しいとされる現象がこうしている間にも起きているからです。

 例えば「悩ましい」という言葉はその典型で、もともとはエッチな印象を与えるものを表す形容詞だったのが、今では悩むことがあって大変な状況を表す形容詞として用いられることが大半です。昔の辞書には前者の意味しか載せておらず、後者は間違いと見なされていたようですが、現在では「後者も正しい意味として認めようよ、みんな使ってんだし」となっているようです。

 もちろん、いつだって言葉遣いには「正しい」と「間違い」はあるでしょう。しかし、「正しい」と「間違い」を区切る壁は意外と低く、様々な言葉が乗り越えていってしまっている。中には壁の上で踊って生活しているような、「合ってるのか間違ってるのかどっちなんだだこれは」というものも存在しています。

 というわけで、今回はその壁際に存在していそうなタイトルをいくつか選んでみました。まずは「授業中 刑法講義―われら考える、故にわれらあり」です。

 デカルトの代表作をいじった副題も気にはなりますが、注目点は「授業中」です。この「授業中」、考えれば考えるほど意味が分からないんです。題名から考えて刑法の授業中なんだろうなとの予想はつきますが、刑法のテキストならば大概は授業中に使われるわけで、なぜわざわざ題名につけたのかが分からない。ひょっとすると中を読めばこの疑問は解決されるのかもしれません。授業を模したような文章で刑法を説明しているのかも。

 ちなみに「授業中 刑法演習―われら考える、故にわれらあり」という本もございます。

 いわゆるシリーズ化でございまして、「刑法」はもちろん、「授業中」も疑似デカルト副題も踏襲しています。

 続いては「アプロウチ&Qで学ぶ設題民事訴訟法」です。

 この「アプロウチ&Q」とは何なんでしょうか。「アプロウチ」は恐らく「アプローチ」でしょう。Googleで「アプロウチ」を検索しても「いやいや『アプローチ』でしょ」と全自動で訂正してきます。わざわざアプロウチなんて独特な表現にした理由は不明ですが、とにかくアプロウチにした。

 更に謎なのは「&Q」です。これに近い表現としてはQ&Aがございます。「Question and Answer」、つまり「質問と答え」ですね。仮にそうだとすると、&Qは「and Question」でございまして、「アプロウチと質問」となるわけです。もしくは「アプロウチと問題」でしょうか。Answer、つまり答えは用意していないと暗に言っているかのようです。「アプロウチは用意してあるから、後は自分で導き出せよ」ということなのかもしれません。いずれにしろ、独特すぎて誤字かと見間違える表現です。

 続いてはこちら、「人事・賃金評価制度マニュアル: ピカリと光る成功事例」です。

 とにかく目立つのは「ピカリ」です。「ピカッ」と「光」が合体したような言葉ですが、ちゃんとした言葉です。

 軽く検索してみたところ、ピカリは競走馬や製品名、企業名などに使われています。しかし、光るものに使われる表現としては、現在ではマイナーな部類に入っている感は否めません。だから、どうも違和感のある題名になりつつあるのかもしれません。

 続いてはこちら、「熱血会計士が教える 会社を潰す社長の財務! 勘違い」です。

 「社長の財務!」で終わっても題名としては充分に意味が通じるんです。それだけに、「勘違い」から蛇足感が漂っているんです。

 会社を潰す社長がやりがちな、財務に関する勘違いを紹介する内容だと推測できるのですが、題名の「財務」のあとに「!」をつけたことにより、「財務」と「勘違い」が分離してしまったかのような印象を与えてしまったのでしょう。そのため、結果的に「勘違い」だけ浮いたように見えてしまうのだと考えられます。

 最後はこちら、「らくらく経済学入門たまご」です。

 「らくらく」「入門」「たまご」は、どれも入門書に用いられる言葉ではあります。ビギナー向けの本ですよ、そんな難しくありませんよ、肩ひじ張らずに読めますよ、というメッセージを込めているのでしょう。しかし、これを全部入れ込んだ上、順番の妙によって、経済本の形をした卵みたいな印象を与える題名になってしまいました。「この卵から何が生まれるのだろう」「やっぱり経済学者かな」という、間違ったワクワクを心へ宿してしまいそうになります。

 なんて感想を書き連ねて参りましたが、何しろ正しい言葉と間違った言葉の境界線は曖昧です。ですから、面白がっているのは実は私だけであり、世間的には至って普通の正しい表現である場合も考えられます。その場合は、是非とも私を笑ってくださればと存じます。

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