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題名読書感想文:02 解説書タイトルの天然

 書店でも図書館でもアマゾンでもいいですけれども、本がたくさん集まっているところを見てみると、いわゆる解説書が大量にあるんだなあと気づかされます。

 解説書はその名の通り、何か難しい専門知識を分かりやすく解説する目的で出版された本でございますから、専門知識の数だけ出せるわけです。そして、専門知識は無数にございますし、ひとつの専門知識に複数の解説書が出るなんて当たり前ですから、解説書が世にあふれるのは当然と言えましょう。

 出版社は専門書を商売で出しているわけですから、当然ながら1冊でも売れるように作っているはずなんです。ゆえに、なるべく多くの人が理解したがっている専門知識を題材にするでしょう。600ページにもわたってうおの説明をしまくった専門書なんて普通は出さないわけです。自分で適当に考えておきながら、なんかものすごく読みたくなってきましたけれども、こんな解説書ばかり出版してちゃ商売にならないんです。

 実際に買ってもらうためには分かりやすい文章やイラストでの説明も必須でしょう。内容だけでなく、書籍の顔とも言える表紙、そしてタイトルもまた同様です。むしろ、まず人目に触れるのは表紙やタイトルなんですから、そっちに力を入れたとしても何ら不思議ではない。だから、出版社の方々はみんなきっと熟慮に熟慮を重ねていると思うんです。

 ところで、多くの人が理解したがっている専門知識とは何でしょうか。それは恐らく、多くの人にとって必須な専門知識のはずです。例えば、遺言や相続なんかがそれでしょう。誰もがいつかはこの世を去りますし、その時に備えてできることはしておきたいと考えるのは自然な流れです。出版されれば買い求める方は多いでしょうし、そんな人気ジャンルを他所が放っておくはずがありません。結果として、多くの解説書が出版されるに至っています。

 より多くの人に買ってもらうことを想定した本ですと、タイトルは往々にして分かりやすいものになります。それはそうでしょう。難解な表現は間口が狭くなるだけです。遺言・相続の解説書もまた、分かりやすさを重視したタイトルが非常に多い。シンプルなタイトルに、副題で補足を入れ、表紙だけでも内容が予想しやすくなっています。

 ところで、どんなものでも数が増えると変わり種が出てくる傾向にあります。遺言や相続の解説書もまた例外ではございません。本のタイトルに絞ったとしても、です。

 どうしてどんなジャンルでも数が増えると変わり種が出てくるのか。明確な原因は分かりませんし、あったとしてもきっとひとつではないでしょう。とにかく事実として出てくるんです。そんな変わり種が「レッツ遺言セット」です。

 何名かの友人知人に「私が1番グッとくる遺言の本は『レッツ遺言セット』だ」と言ったところ、全員例外なく笑ってくれたので、変なタイトルであることは間違いないと思われます。何が変って、文法が変なんです。

 そう言う私が大の文法無知なのですが、少なくとも「レッツ(let's)」は「~しましょう」という意味がある英語で、「レッツ」の後ろに動詞が来ることは知っています。つまり、「レッツ・ゴー」みたいな使い方が正しいわけで、「遺言」なんて名詞だし日本語だしで、文章としてかなり不思議な状態になってるんです。

 更にダメ押しているのが「セット」です。「レッツ」にも同じことが言えるんですが、どこまでかかっているのか分からないんです。つまり、「レッツ・遺言セット」なのか「レッツ遺言・セット」なのか、はたまた「レッツ・遺言・セット」なのか分からない。そして、いずれにしろ普通の文法ではなくなっている。だってそうでしょう。「遺言セットしましょう」なんて誘われたところで、何をどうすればいいのか分からず、心をかき乱されて立ち尽くすことしかできません。

 アマゾンによると「レッツ遺言セット」は編集とイラストを「神奈川県司法書士協同組合」が担当し、「全国官報販売協同組合」から出版されています。ちょっとした漢詩くらい漢字が並んでいる「全国官報販売協同組合」は主に政府刊行物関連書籍を販売しているところです。だから、内容はきっと間違いない。そんな間違いない書籍を多くの人に使ってもらおうと、真面目な人が分かりやすいタイトルを真面目に考えたに違いありません。ただ、ちょっとした天然が発動してしまっただけなんだと思います。

 そして、お分かりの通り私はそういう名前が大好物です。計算し尽くされたタイトルには持ちえない魅力がある。天然の素晴らしさを体現しているとも言えます。この「レッツ遺言セット」、「令和新版」と称されていることからもお分かりの通り、長らく版を重ねている商品でもあります。次の元号になる時も「レッツ遺言セット」のままで出版されてほしいと私は切に願っております。

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