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駅伝応援の文脈と誤解

 文脈を読むことと誤解が生じることは表裏一体なんじゃないかと思ったんです。

 何でもかんでもいちいち事細かに説明していたんでは話すのが大変になりますし、聞いてる方も「分かったから、もういいから」となってしまいます。だから人類はどこかの段階で、全部いちいち説明しなくてもそれなりの情報が得られれば理解できるようになる力、すなわち文脈を読む能力を得たんだと思います。

 しかし、話を聞いてる人が話者の意図通りに文脈を読んでくれるとは限りません。全部いちいち説明しないため、間違った解釈をしてしまう。つまり、誤解が生じてしまうわけですね。中には意図的に誤解して相手をいじるような人もいます。私の友人、ここでは太田君としておきますが、彼もまたそのひとりです。

 太田君は年末年始に実家へ帰省し、3兄弟で箱根駅伝を見ていたそうです。折りしも上の弟は青山学院大学、下の弟は駒澤大学の出身で、これだけで応援に力が入る要素は揃っていると言ってもいい。しかし、長男である太田君の母校は箱根に出た経験がなく、今後もまず出てこないであろう大学でした。つまり、ひとりだけ応援に力が極めて入りづらい状態と言えます。

 応援に力が入らないと、斜に構えるつもりがなくても余計なところばかりに気がついてしまうものです。太田君もまたそうでした。駅伝といえば、車に乗った監督が走者にあれこれ指示したり励ましたりする光景が非常によく見られます。その監督の発言がいろいろ気になったそうなんです。

 例えば、監督が選手に向かって「前が見えてるぞ」と言ったんだそうです。普通は「前を走ってる選手の姿が見えてるぞ」という励ましの言葉であり、だから頑張れという意味合いもあったんだと思います。しかし、太田君にはズボンのチャックが全開だぞと指摘してるように聞こえて仕方がなかったんだそうです。

 「監督が公衆の面前で『見えちゃいけないものが見えてるぞ』と大々的に指摘するとはなんて厚顔無恥な」

 そう訴える太田君は半笑いでした。

 あと、実況するアナウンサーの発言も気になったそうです。

「走っている人の様子を確認しては、『口が開いてる』だの『顎が出ている』だの悪口みたいなことを言うんだよ」

 確かにマラソンや駅伝の実況はなぜか「口が開いてる」と「顎が出ている」という言葉を使いたがります。事実そうだから言っているんでしょうけれども、確かに聞き方によっては外見を悪く言っているようにも聞こえなくもない。いや、百歩譲ってそう聞こえるかもしれないというだけで、基本的にはいちゃもんの域です。

 とりあえず、太田君の駅伝鑑賞は、誤解を利用して監督とアナウンサーをいじって終わったことだけは分かりました。私としては文脈を読むことと誤解が生じることは表裏一体であると同時に、文脈を間違って読みに行くことがちょっとした笑いに繋がると再確認した次第です。

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