見出し画像

M-1グランプリで漫才の限界を探ってみました

 M-1グランプリは結成年数などちょっとした条件を満たせば誰でも参加できます。そのためか、実際に見たことがある方はご存じでしょうが、予選1回戦から2回戦辺りは相当自由です。何だかよく分からない方々が何だかよく分からないことをして、それを見て何だかよく分からなくなった審査員がたまに合格させちゃうなんてこともあります。

 これは漫才かどうか、みたいな会話が世界のどこかで展開されているようですが、ある意味では毎年のように漫才の限界へ挑み続けているのがM-1グランプリの予選1~2回戦と言えるでしょう。私も予選は数えるほどしか見たことがありませんけれども、「魔族」というコンビの片方が舞台上で目にタバスコを入れ、悲鳴を上げながら退場する様に出くわしています。もちろん、そんなネタばかりではありませんが、とにかくそういう世界です。

 そこで、M-1グランプリに参加したバラエティ豊かな方々を集めて、漫才の限界を垣間見ようと思いました。主にネットで簡単に手に入る情報の他、私の記憶なんかも引っ張り出してみました。不確かな部分もありますが、そこも含めてお楽しみいただければと思います。

1.年齢の限界

 去年はM-1最年長優勝者が出たと話題になりましたが、大会全体では何歳が最年長でしょうか。ウィキペディアでは2006年にエントリーしたアマチュア「福岡豆腐店」の86歳が最高とされています。

 ちなみに、この手の話でよく出てくるのがサンミュージック所属の親子コンビ「めいどのみやげ」です。父親のティーチャさんは教師を退職後に芸人を志し、娘のサッチィーさんとコンビを組んで活動しています。ティーチャさんは「欽ちゃんは高校の後輩だから」とか「早く売れないと寿命が来ちゃうよ」とか、自身の高齢を活かしたネタを駆使しております。今、何歳だろうと調べたところ、今年の1月で87歳になっていました。

 昨年のM-1に「めいどのみやげ」は参加していないようですが、2008年結成なのでまだまだ出場は可能です。仮に今年出場すれば最高齢を更新する可能性があります。

 ちなみに、ウィキペディアによると最年少記録は2008年にエントリーしたアマチュア「もこちゃんず」とされています。注目は生後11ヶ月の赤ちゃんで相方はお母さんです。その赤ちゃんも今は13~14歳になっていると思われます。

2.人間の限界

 冒頭で書いた通り、M-1グランプリは賞レースの割には参加条件が緩く、誰でも気軽に出られる。それが大規模化の一因になっていると考えられます。最も厳しく、そして明確な条件は結成年数でしょう。

 2004年開催の第4回には早くもそこを乗り越えようとした著名なプロが出てきます。「とんこつなんこつ」はプロレスラーの覆面をかぶって漫才をしましたが、その格好にもかかわらず正体はバレていました。覆面をしていたのは当時、既に結成年数を超えていた「カンニング」です。現在は「カンニング竹山」として活動する竹山さんと、当時はまだご存命だった中島さんのコンビでした。

 知名度の無さを利用し、無名時代に何度もエントリーをしたと証言しているコンビもいます。昨年に初めての決勝進出を果たしたランジャタイです。彼らが言うには、まず「ランジャタイ」で参加して1回戦敗退、続いて「おいもほったーず」で参加し1回戦敗退、更に「スーパーおいもほったーず」「おいもほったーずNEO」でも参加し、1回戦敗退に終わったようです。

※該当箇所は23分57秒ごろ

 個人的には裏付けが欲しくて調べたんですが、2007年に「ランジャタイ」で2回エントリーした記録は残っているものの、一連の「おいもほったーず」たちの記録は見つからず、目撃情報すらありませんでした。

 それから、曖昧な記憶ですが「本来はトリオなのに4人目を連れて来た」というパターンを見たことがあります。キングオブコントで決勝進出経験もある「鬼ヶ島」です。3人で舞台に現れるんですが、ひとり明らかに違う人がいる。でも平然とネタをしている。そのうち舞台袖から本当の3人目が出てきて「どうして俺をのけ者にするんだ」みたいに訴える。そんな内容だったと記憶しています。ちなみに4人目は以前に鬼ヶ島へ所属していた方でした。

 私はそれを2回戦で見て、普通に3回戦へ進出していたので、2006年か2008年くらいのネタじゃなかったかなあと思います。どの道、10年以上前の話なので、今も同じことをやったとして、2回戦を勝ち抜けるとは限りません。

 ちなみに2019年のR-1でガリガリガリクソンさんがアメリカ出身のピン芸人「リー5世」さんを舞台に上げてネタをさせたことがありました。それはそれで面白かったのですが、普通に怒られたようです。さすがに全くの別人だとまずいみたいです。

参考サイト

 最後に、2002年に参加した「スターダストキッズ」は4人の黒子が2体の人形を操ってネタをしていた、という記録を見つけました。大規模なパペットマペットさんみたいですね。気になって調べてみたら、同じ方々なのかは分かりませんが、人形劇団のサイトがヒットしました。

参考サイト
http://www.kyougei.com/index.php/product/manzai
http://www.kyougei.com/archives/manzai/diary1/diary1.htm

3.生物の限界

 人以外の生物が漫才をしても良さそうなもんですし、誰かが思いついてそうなものですが、調べても意外といらっしゃいませんでした。大会の都合と言うよりは劇場の都合が大きいでしょう。舞台に野犬を放ったり、何となく鷹狩なんて始めた日には、観客の安全を保障できませんし、劇場の清掃も大変になりかねません。

 ただし、動物と共に舞台へ上がる芸能は古来より存在し、一例として猿まわしがあげられます。そして、日光猿軍団でも知られる太郎次郎一門の「ゆりありく」が2009年のM-1グランプリに出場しています。しかし、あくまで伝統芸能の一門という信用があったからこそ出場できたわけであって、その辺の人がその辺の猿を捕まえて仕込めば参加できるというものではないでしょう。

 一方で、昨年のM-1で魚類との漫才を試みたアマチュアもいらっしゃいます。その名も「金魚と強盗」です。いかにも強盗らしい覆面を被った人間と金魚によるコンビです。なるほど、金魚くらいなら劇場のオーケーが出てもおかしくはない。ちなみに「金魚と強盗」はあまりにも異質だったためか、M-1公式YouTubeにも取り上げられていました。

 劇場にもよるでしょうが、小魚はオーケーだった。となると、他に許可がでそうな生物は何か。そう考えると、どうしようもない方向に夢が広がって楽しくなりますね。

4.物質の限界

 軽く調べた感じ、人以外の生物よりも相方として選ばれがちだったのはマシンの類です。

 人とアレクサとのコンビ「DA」は、なんとプロです。プロフィールを見るとアレクサの性別が女性になっている辺りにこだわりを感じます。ネタは見たことがないので何とも言えませんが、形式としては漫談に近いか、もしくは陣内智則さんみたいに何らかの装置にツッコんだりするものになっているのではないかという予想はできます。ちなみに2020年、2021年と出場しており、新しい漫才を切り拓こうと…しているのかは分かりませんが、孤軍奮闘しているようです。

 ロボットと人間のコンビも出てきています。例えば「サリーと教授」、こちらもプロです。人間のほうはマジの大学教授でありまして、相方のロボットは人工知能を搭載し、自ら言葉を発します。私の記憶だと、観客からお題をもらって、ロボットのサリーさんがお題に沿った「謎かけ」を展開するというネタをしていました。2年続けて出場するもここ数年はお休みしているようです。

 動画も上がってまして、謎かけやもっと漫才っぽいネタもやっているようです。

 ロボットのペッパーと組んで出場したプロもいらっしゃいまして、名前も「ペッパーズ」とかなりど真ん中です。初出場の時は話題となり2回戦に進出します。3年連続で出場しましたが、最近はお休み気味です。

 ふたりともペッパーという試みもされています。名前は「ダブルペッパー」とこちらもど真ん中です。こちらは私も見ましたが、確かにペッパー同士が漫才をしているように見える。何百人もの観客がジッと2体のペッパーを鑑賞する姿は未来の劇場を思わせるものでしたが、こちらは2017年限りの出場に留まっています。

 甲南大学の学生が制作した人工知能搭載型ロボット「あいちゃんとゴン太」もロボットのみの漫才コンビです。制作者のサイトによると、お題を与えるとそれに基づいてネットのニュースサイトから素材をかき集め、即興で漫才を始めるというシステムのようです。YouTubeには動画も上がっています。

5.概念の限界

 映像だけの出場というパターンも早くから試みられています。2002年に開催された第2回ではフルCGによる漫才コンビ「BOB&MIKE」が出場しています。CG制作はデジタルハリウッドの卒業生が担当、中の人は吉本の漫才コンビ「トクトコ」が担当していたようです。軽く調べた程度ではネタの内容が分かりませんでしたが、2回戦まで進出したとのこと。

 2018年に出場した「ウノレレ」は初のバーチャルYouTuberコンビです。所属する「SR企画」の代表はもともと「メカドッグ」としてスギちゃんとコンビを組んでいた沢原さんであり、こちらもプロの仕業です。

 この辺りになってくると舞台でやる漫才の大会として大丈夫なのかと心配になってきますが、M-1グランプリは割と懐深くやっていく方針のようで、こうやって大会を賑わせています。

6.終わりに

 以上、ざっと簡単にまとめてみましたが、いかがでしたでしょうか。大勢の人が参加すれば、いろんな形式が出てくるものだなあと実感できたかと思います。ガチガチの漫才をしてくる人もいれば、道なき道しか歩かないような独自路線に突き進む人もいる。いろいろ見たい私のような人間からしてみたら楽しい限りです。

 こうやっていろいろやっている中から未来の漫才が生まれるかもしれませんね。それこそ、ロボットや人工知能は年々やれることが増えているでしょうし、ひょっとしたらロボット漫才師が3回戦、準々決勝と勝ち上がり、新たな議論が巻き起こるかもしれません。

 ひとまず、今回はこんなところです。ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?