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山でやっちゃいけないことを大体やった話

 YouTubeを見ていたら、なぜか山岳遭難ばかり紹介している動画がお勧めに出てきたんです。それを見て軽く肝を冷やし、見終わってホッとしたのも束の間、似たようなYouTubeチャンネルの似たような動画が大量にお勧めで出てくるんです。充分に冷えたはずの肝は、更に冷えてゆく羽目になりました。私は登山の経験がなく、これからもする予定はございませんけれども、「山には気をつけないといけないな」と思いました。

 動画を見まくっていると、事故による教訓や遭難した際に生き延びる方法が嫌でも頭に入ってきます。「ちゃんと準備をする」「きちんと計画を立てる」「なるべく無理な日程は組まない」など、登山にかかわらず大切なものもあれば、「道に迷ったら来た道を戻る」「沢に下りず尾根に出る」「時にはその場を動かないことも大切」など登山ならではの知恵もございました。

 さて、私は日常的にジョギングをしているのでありますけれども、帰省した際もジョギングをしております。地元では毎回違ったコースを選んでおりまして、特定の場所や建物を目標にして行って戻ってくる時もあれば、走りやすそうな道を選ぶ時もあります。

 そんなある日、年末年始の帰省をしていた私は、グーグルマップを見まくって、とある無人の神社を目標にするコースを組み立てました。割と実家から近い神社でしたが、この時、初めて存在を知りました。どうも近所の山の中にあるらしい。なんか面白そうに感じまして、行ってみようと思ったんです。

  神社のある山は標高が数十メートルで、山の中心地からでも好きな方向へ数百メートルまっすぐ行けば住宅地へ辿り着ける。ハッキリ言って小さな山です。しかし、実際に山へ入ってみると、参道は未舗装の細い道でございまして、歩いていると藪がビタビタと身体にぶつかってきます。周囲は完全に山林でございまして、巨大な倒木がそのまま放置され、コケやらキノコやらを生やしている。勾配はなかなかに急で、転び方が悪ければ結構な滑落ができるレベルです。

 とりあえず、ヒーヒー言いながら神社には辿り着きました。すると、神社の近くに看板がありまして、神社の奥にも林道があると書かれています。せっかくここまで来たからと、その林道を通ってみることにしました。

 林道に入って5分、私は早速、道を見失いました。どういう仕組みか分からないのですが、さっきまで歩いていた道が一瞬にして消え去ったんです。私の周囲には獣道すらない。どこを向いても木々が生い茂る山林しかありません。現在位置を確認しようにも、何しろ私はジョギング中でございますから手ぶらです。どうしようもありません。

 私はとりあえず慎重に急斜面を下ることにしました。何しろ、私がいるのは小さな山です。このまま下りれば、どこかの住宅地に辿り着くとの確信がありました。事実、見上げれば枝葉の間から近くの民家が何軒も見えるんですが、視線を落とすと昼でも薄暗い山林が広がっています。時代が時代なら狸にでも化かされたと思ってしまいそうな、印象的な景色でございました。

 何回か転びそうになりながらもようやく斜面を下り切ると、普通に住宅地へ辿り着きました。しかし、私の感覚よりも位置がだいぶズレていました。ちゃんと方向感覚を失っていた証拠でございます。

 住宅地に着けばこっちのものです。私はすぐにジョギングコースへ戻りまして、無事に家へ辿り着いた次第でございます。ただ、冷静になって思い返してみたんです。何の用意もないのに、その場のノリだけで無計画に変な林道へ入り、道に迷っても来た道を戻らず突き進み、尾根とは正反対に下っていく。山で遭難した時にやっちゃいけないことを大体やってるんです。あとは沢を下れば逆パーフェクトだったんですが、たまたまその時は沢と遭遇しませんでした。もし見かけたら下っていたに違いありません。

 というか、いくら住宅地がすぐそばだったとしても、派手に転んで歩けないレベルの怪我をしたらアウトです。私は近所の小さな山でウッカリ遭難したアホとしてニュースに載り、私の親族は終生、気まずい思いをする羽目になったのかもしれないんです。

 ちなみに私を速攻迷わせた林道は、スマートフォンの地図を確認しながら歩いたところ、ちゃんと道を見失わずに済みました。いくら小さいとは言え、手ぶらで山に入るものではないなと痛感した次第です。というか、地元だろうと平地だろうと街中だろうと、初めての道を適当に進んだらちゃんと迷うんです。普通は経験しなくても分かるはずなんです。

 登山する気なんてもともとありませんでしたけれども、私の場合はなくて正解だと思いました。下手に山好きだったら、命が100個あってもあっという間に使い切ってしまっていたでしょう。危ないところでした。

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