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題名読書感想文:24 あああいいいうううえええおおお

 丸々1冊読んで感想を書くのは大変だから、読むのは題名だけにしておこう。そんなどうしようもない読書感想文が「題名読書感想文」でございます。もちろん、夏休みの宿題にはお勧めできません。せめて、1冊読んだフリはしてください。

 今回のテーマは「同じ文字の繰り返し」です。

 どんな言葉でも、同じ文字が繰り返す時よりも、繰り返さない時の方が圧倒的に多いです。例えば、日本語の五十音を完全ランダムにひたすら並べていくとすると、「ああ」みたいに同じ文字がふたつ並ぶ確率は「1/50×1/50×100=0.04%」となります。みっつ並ぶ確率ともなりますと「1/50×1/50×1/50×100=0.0008%」となって、もう低すぎてよく分からない数値になっております。まあ、とにかく珍しいわけです。

 とは言え、確率はゼロではありませんから、当然ながら同じ文字が繰り返す場合は存在します。同じ文字がふたつ続く単語は「桃(もも)」や「母(はは)」など日常会話で普通に使うものがそれなりにございます。これがみっつとなりますと、ほとんど存在しません。0.04%と0.0008%の、桁の違いを痛感するところです。

 0.0008%とはどれくらいの低確率なんでしょうか。一般の方のブログではありますが、具体例を見つけました。それによりますと、某ジャンボ宝くじで「連番とバラそれぞれ10枚、計20枚買った場合の1億円以上の当選確率」なんだそうです。

 それくらいの低確率ですから、当然、珍しい。珍しいものは、時によく目立ちます。

 本の出版だって商売でやってますから、題名で客の目を引いて、少しでも手に取ってもらう確率をあげたいと思うのは自然な流れです。だからなのか、同じ文字がみっつ並んでいる題名が意外とあるんです。そんな題名の中から、一部分ではありますが、選んでみました。

 ちなみに、同じ文字がみっつ以上続く題名が見られたジャンルは主に4つです。まずは文学関係です。例えば、「句集 どつどどどどう」なんかがそれです。

 特に詩や俳句では新たな表現を追求する目的で同じ文字を続けてみる場合があるようなんです。詩人の草野新平が「るるるるるるるるるるるるるるるるるるるる」みたいに、「る」ばかり並んだ詩を作ったことからもそれがうかがえます。

 他にも有名な方がこの手の題名を作品につけています。芥川龍之介の「あばばばば」です。

 「あばばばば」は女性が子供をあやす時の声でございます。いわゆる「擬音語」というやつですね。「擬態語」と合わせて「擬声語」と呼ぶようですけれども、同じ文字を繰り返す言葉となると、とにかく「擬声語」が圧倒的に多いんです。

 そして、擬声語は年齢を問わず理解しやすい言葉のためか、小さい子供に向けた本の題名によく使われます。というわけで、同じ文字がみっつ以上続く題名が多いジャンルその2は児童書でございます。

 例えば、「きゃああああああああクモだ!」です。

 叫び声ですね。「きゃあああ」は叫び声としては王道ですが、ここまで「あ」を並べる題名となりますと、まず出会えません。

 「ごろろうううぶうぶう」という題名もあります。

 文字だけ見ると一瞬何のことかと思いますが、表紙の画像を確認すると「ごろろ」「ううう」「ぶうぶう」で分けられているので、動物の鳴き声だと思われます。

 擬声語を他の単語と組み合わせるパターンもございます。例えば「しゅばばばばばばびじゅつかん」です。

 一見すると美術館とは合わなそうな擬声語ですけれども、それも計算に入れていると考えられます。もちろん、なぜ「しゅばばばばばば」なのかは作品内で語られているでしょう。

 似たような擬声語が全く違う意図で使われる場合も当然ながらございます。例えば「たたたん たたたん」です。

 どうやら電車の走る音を表現しているようです。一方、「たんたんたたた」は全く違うものを表現しています。

 副題の「機関銃と近代日本」をご覧になればお分かりの通り、こちらは銃声を表しています。当然、児童書ではありません。同じようにたんたんしてるのに、電車と銃声なんです。

 児童書には同じ文字の続く題名が多いと書きましたけれども、そのような題名を出しまくってる絵本作家がいらっしゃいます。五味太郎さんです。

 現在までに400冊以上も出版されていますけれども、同じ文字がみっつ以上続く題名が結構あるんです。

 まず「かかかかか」。

 続いて「ばく・くくく」。

 それから「ててててて」。

 更には「どどどどど」。

 「ぬぬぬぬぬ」なんてのもあります。

 「ははははは」も押さえていますし、

 「ビビビビビ」に至ってはカタカナです。

 かと思えば「ぽぽぽぽぽ」。

 「なかぐろ」を活用した「り・り・り・り・り」。

 草野新平の胸を借りたかのような「るるるるる」。

 五十音最後の番人「ん」を用いた「んんんんん」も、もちろん完備です。

 他にも、「さる・るるる」という作品がございます。

 この作品はシリーズになっておりまして、まず「さる・るるる one more」が発売され、

 2冊をセットにした「さる・るるる ペアセット」が発売、

 その後は「さる・るるる Special」、

 「さる・るるる・かるた」と続き、

 「さる・るるる・る」という作品も発売されています。

 今回のテーマからは外れますが、「まだまだ まだまだ」という題名の作品もあり、とにかく同じ言葉を繰り返す題名が多いんです。

 全作品が400と考えると明らかに0.0008%を上回っており、意図してそのような題名を選んでいることが分かります。

 五味太郎さんは「日本語擬態語辞典」という書籍も出しており、そっち方面に並々ならぬ興味をお持ちなのだと考えられます。

 と、ここまで散々擬声語について触れてきましたが、同じ文字をみっつ以上繰り返すものの中には、擬声語以外も存在します。それは「単語の中の1文字を何回か繰り返す」というものでございまして、「ばばばあちゃんのアイス・パーティ」がそれにあたります。

 「ばばばあちゃん」が馬場さんである、つまり「馬場ばあちゃん」の可能性もあるわけですが、つまりはこういうことです。「ばば」をふたつ頭にくっつけて、単なる「ばあちゃん」ではなくすことで、名前が独特になる。目立つとも言えます。

 児童書ではありませんが、「ドリームムムムムブック」のように、後ろにくっつけるパターンもあります。

 単語の中の1文字を繰り返し、それを擬声語とくっつけるという合わせ技を採用している題名もありまして、それが「ウポポウポポポポタージュスープ」です。

 アマゾンのレビューによりますと、「ウポポ」はポタージュスープの歌声とのこと。理屈ではなく、感覚で読むタイプの作品だと思われます。

 ちなみに、この「単語の1文字を繰り返す」手法は、なぜか漫画でよく見られました。同じ文字がみっつ以上続く題名が多いジャンルその3ですね。それなりに多いためか、みっつ程度で納める気のない題名もありました。例えば、「メメメメメメメメメメンヘラぁ」です。

 メンヘラの「メ」を何度も何度も繰り返すことで強調された題名です。

 同じ文字を単に連続させず、ちょっと散らした題名もあります。「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」がまさにそれです。

 この題名の場合はデストラクションの「デ」を繰り返す形を取りつつ、「デッドデッドデーモンズ」でも「デ」を揃えるという、特殊な形となっています。ちなみに、英語の題名もこの形式を踏襲しており、「Dead Dead Demon's DeDeDeDeDestruction」となっております。

 ただし、英語版ウィキペディアでは「Dead Dead Demon's Dededede Destruction」と若干表記が異なっております。日本語では略称が「デデデデ」、英語では「DDDD」とのこと。

 さて、ここまで「文学」「児童書」「漫画」と3つのジャンルで、同じ文字がみっつ以上繰り返す題名を紹介してきました。残る1ジャンルでございますが、これがBLを含む大人限定の作品なんです。

 今回、いくつかの書籍検索サイトを使って調査したんですけれども、そっち方面の書籍がなんかやたらと引っかかってくるんです。しかも、題名にそういう部分があるならばまだしも、ないのに検索結果に出してくる場合も少なからずありました。

 どういうことなのでしょう。必然的に五感を使って読むジャンルだからなのかもしれません。ただ、さすがに大人限定本は載せられません。と思ったら、学術的な本ゆえか大人限定になってない本がありました。それが「ししぼぼそそそ」と「へへべべぼぼぼ」の「色好み風流江戸の夜ばなし」シリーズです。

 「ししぼぼそそそ」や「へへべべぼぼぼ」だけ見せられても、何のことだかよく分からない、単なる文字の羅列にしか見えませんけれども、ここに「色好み風流江戸の夜ばなし」とつけると、途端になまめかしく見えるから不思議です。

 以上で同じ文字がみっつ以上繰り返す題名の多い4ジャンルをご紹介し終えました。しかし、どれも恐らくは意図的に作られた題名でしょう。あれこれ計算して、繰り返しを用いているわけです。たまたま0.0008%を引いた題名ではない。

 では、偶然0.0008%をゲットした題名はあるのでしょうか。とりあえず、1冊だけ見つけました。「ずるいくらいいいことが起こる『悪口ノート』の魔法」です。

 もちろん本当に意図してないかは、題名を考えた本人にしか分かりません。ただ、少なくとも今回調べた限りでは、最も意図を感じられない、天然の香りが濃厚な題名です。

 なんか私が小学生だった頃、日記で「ぼくとおとうととともだちのいえにいきました。」と書いた時に「すげえ、『と』がみっつ続いてる」と感動したのを思い出しました。そう考えると、私は小学生の時から何も変わっていませんね。

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