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死後の楽園の死後

 子供の頃、ゲームにハマっていました。特にRPGが好きで、ドラクエやFFといった有名どころから、知る人ぞ知る名作、クソゲーと隣り合わせゆえにカルト的人気を誇る怪作に至るまで、いろいろ楽しんでいました。

 ゲームをしまくる私を見て、母もRPGに若干の興味を抱いたようです。画面を見ては「今は何をやっているの」と聞いてきたり、母自身も攻略本を買って忙しい中、実際にやってみたりしていました。

 そんなある日もRPGをしている私を見て、母は言いました。「これギリシャ神話の神様じゃん」。画面にいたのは「アトラス」という名前の敵でした。当時、アトラスはゲームオリジナルの敵だと思っていたので、母は絶対に知らないと思っていました。だから、彼女の一言は意外でございました。

 私は思わず尋ねました。

「何、ギリシャ神話って」
「大昔にギリシャってところで考えられた神様のお話だよ」
「へえ、そんなのあるんだ」
「図書館に行けば本があるはずだよ」

 というわけで、母と一緒に図書館へ行き、ギリシャ神話の本を借りてきました。子供向けとは言え真面目な本でしたので、当時の私にはゲームより面白いとは思えませんでしたけれども、確かにアトラスはいましたし、他にもメデューサとかポセイドンとかゼウスとか、ゲームでよく出てくる名前がいっぱい出てきました。ゲームは時にこういう神話から名前なり設定なりを拝借して作られているのだと知ったわけです。

 それからも私はゲームをしまくっていたわけですが、どうにも気まぐれの性格なのか、たまに全然別のことに興味を持つことがありました。ある一時期は、なぜか新聞に興味を持ちました。新聞はニュースばかり載っているのだと思っていましたが、よくよく見ると水晶玉の広告があったり、私と同じくらいの子供のポエムがあったりと、意外とバラエティーに富んでいるんです。

 新聞によって内容が違うのも私の目には面白く映りました。母の実家へ遊びに行った時も、入るや否や祖父から新聞を借りまして、いろんなところに目を通し始めました。すると、私の家にはなかったものもありました。地元のニュースはもちろんですけれども、おくやみ欄というのもまたそうでございました。

 私が見たおくやみ欄は、社長とか芸能人とかではなく、地元に住んでいる方ばかり載っているんです。確か、ザックリとした住所も載っていたと記憶しておりまして、そのおくやみ欄でご近所の方が亡くなられたと知ることもあるようです。個人情報の保護が当たり前となった今の新聞に載っているのかは、新聞を取っていない私には分かりかねますが、とにかく当時の新聞にはそんなものが載っていた。

 繰り返しになりますが、おくやみ欄には亡くなられた方の名前だけでなく、ザックリとした住所も載っていました。だから、気づいたんです。何日か続けて見ていると、亡くなられた方の何人かにひとりの割合で、住所に「エリシオン」と書かれているんです。

 「エリシオン」はギリシャ神話の本に載っていたので知っていました。いわゆる死後の楽園というやつです。

 だから、妙に思ったんです。何でギリシャがこんな近くにあるのかと。神話の世界がどうして日本の片田舎にあるのかと。

 死後の楽園のはずの「エリシオン」で定期的に亡くなる方がいらっしゃるのも謎でした。せっかく訪れた死後の楽園で、なぜもう1回亡くなる現象が多発しているのか。

 早速、母に聞いたところ、こんな答えが返ってきました。

「それ老人ホームだよ」

 さすがは大人、一発で疑問が解決しました。そして、新しい事実を知ることもできました。思ったよりもいろんなところで、ギリシャ神話に出てくる名前を使っているんだと。

 ギリシャ神話のすごさを初めて思い知った瞬間です。

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