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51年後の再会

午後の数時間だけ雨が止む と天気予報のアプリが示した通りになった。梅雨の真っ最中の6月に2週連続で台風が近づく、そんなイレギュラーな空模様でもここまで当ててくるようになったとは。ラジオから流れてくる沖縄の天気予報はだいたい「晴れ時々曇り、ところによりにわか雨」と揶揄していたあの頃、気圧の単位はヘクトパスカルではなくミリバールだった。
一昨日からの雨で水蒸気たっぷりのところに、場違いみたいな強い日差し、日傘の取っ手をぐっと握らせる生ぬるい風。額と頭皮が汗でじっとりしてくる今年初の感覚。

あれっ?
引き返して確かめたいのと、歩を進めて早く目的地に到着したい気分が拮抗する。
なんだっけ?
足を止めずに今しがた見たものを思い出す。
ブロック塀の端のところに淡いオレンジのポーラチュカみたいなのが咲いていた。
みたいなの?
ポーラチュカにしては花がかなり小さかったような。
戻ろう。
え〜!?
剥ぐように方向転換をして違和感を確かめにいく。そこには、草丈20㎝未満、ポーラチュカのような多肉様の葉ではない、直径1㎝ほどの淡いオレンジ色の花を咲かせた植物が生えていた。アカバナルリハコベ。実物を見るのは51年ぶりだ。

1972年、沖縄が日本に復帰した年に、幼稚園からの帰り道で一度だけ見た小さなオレンジ色の花。その発見時の状況と花の形と色を、私はずっと忘れなかった。忘れない以外のことをしないまま約40数年が経過したある日、別の植物の名前を検索するうちに偶然あの花の名を知った。あとは実物に出会うだけとなってから、特に何もしないままさらに時が流れた。私は私の知らぬ間に探し続けていたのだろうか?一瞬すれ違った地際で咲く小さな株を見逃さない精度で。

しゃがみこんでiPhoneを近づける。風で花が揺れ続けている。少しぐらいブレていても撮った写真の画面をタップすれば、AIの画像認識ですぐに植物名が表示されるだろう。
見つけて、知って、再会まで51年かかった探し物がやっと終わった。そういえば、あの日の沖縄は、もう日本だったのだろうか?それともまだアメリカ統治下だったのか。復帰は5月15日で、アカバナルリハコベの花期は3月から6月とされている。どちらの可能性もあるが、わからないままでいい。


参照 「再会を待つ花」
https://note.com/owaranainiwa/n/n01a9d3b9e4a7?magazine_key=m5b82287807c5


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