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帰省

久しぶりに俺は地元に帰ってきた
両親は旅行に行っているので
実家にいるのは俺一人だ

近くの河川敷には魚影が見える

《チッチッ》

林から鳥の鳴き声が聞こえる

ゆったり過ごしていると
都会と田舎は時間の流れが違う事を実感できた

この感覚は上京した時以来だな
明日は、昔行った場所を回ってみようか

そんな事を考えていたら
あっという間に薄暗くなってきた
街灯もないので本当に真っ暗になってしまう
今日は新月だから尚更だ

布団に入り、仰向けになる
子供の頃、人の顔に見えた天井は
もうただの木目にしか見えない

どうでもいい事を考えながら
眠りにつこうとする

うとうとするが一向に眠れない

地元にいた時はこんなことが
毎日のようにあったものだな

子供の頃、俺はよく金縛りにあっていた
怖くて祖父に相談したら
田舎は「そういうもの」の距離感が近いのだと言っていた
当時は本気でそう思っていたのだ

だが俺ももう23である
幽霊もオカルトの類も信じていない
金縛りは生理現象なのだ

こういう時は少し歩くと疲れて眠れる
少し固い引き戸を開けて
懐中電灯を持ち外に出る

夜風が気持ちいい
さらりとした風が頬に触れた

不思議なほど辺りは静まり返っていて
虫の声も何も聞こえない

自分の呼吸音だけが聞こえてくる

ふと空を見た


林の奥

山の方に何か浮かんで見える

周りは真っ暗だけど「それ」は夜より黒くて
そこだけ小さなブラックホールが
出来ているみたいだった

不思議と恐怖は感じなくて
「それ」を見つめてた



ずるり


音はしなかった

その出来事を形容するならそうなるだろう


「それ」から何かが出てきたのだ

その何かはダムが決壊したように溢れ出た

数分、数十分かもしれない

悪い夢のような時間は続いた

やっと何かの勢いが弱まり
「それ」は小さくなり始めた

豆粒ほどになった「それ」は



ぱん

という音と共に消えた

これが去年、俺が体験した話だ

別に信じても信じなくてもいい

ただ新月の夜、誰も居なくて
辺りが妙に静かだったら注意してほしい

空にはきっと「それ」が浮かんでいるだろう








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