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僕はおまえが、すきゾ!(50)

そのまた数日後、僕は油科さんからの呼び出しで、あの日以来また会う事になった。油科さんは、チャコールのワンピースを着て来ていた。まるで、医療白衣のような襟元だったり柄だったりした。油科さんとは、公園で待ち合わせた。油科さんは僕が約束時間10分前に来たのにも関わらず、もう待っていた。公園は、日曜の昼間だけあって、子供達を遊ばせるママ友や、夫婦で子供と遊んでいる人達が多かった。僕は第一声、何と言ったのか、覚えていない。
情けないニヤケ顔で、「やあ久し振り」とでも言ったのだったろうか。
ベンチに座ろうと促したのは、僕だったが、油科さんはそれを断った。もう隣同士で座り合うような仲ではなくなったと言いたげな気がした。歩きながら、少し話をした。
「あの、ごめん」
僕は油科さんに言った。本心からだ。
油科さんも誤った。
「私もごめんなさい」
二人の間に沈黙が訪れた。
「私ね、朝ちゃんに言われたの」
と彼女は僕の目をしっかりと見て言った。
「私のしてる事は、只の執着だって」
彼女は只目の前の現実に立ち向かうように、一言一言噛み締めて言った.
「執着か……」
僕もそれを反芻して言った。
僕の優作への感情は、執着だろうか、友情だろうか、ふと考えた。
「今、何か他の事、考えてたでしょ」
彼女の言葉でふと我に返った。
再び沈黙になった。公園をぐるりと一周程したところで、僕は彼女に言った。
「僕達、もう会わない方がいいね」
彼女はちょっとムッとした顔になって、言った。
「今までありがとうさま!」
彼女はそう言うと、僕の右足を思い切りヒールの靴で踏みつけた。
「痛ってーー!何すんだよ!」
僕は右足を抑えながら、飛び上がった。
「じゃあね!」
彼女は踵を返して、歩いて行った。
一度も、振り返る事も無く。
僕は足も痛かったが、心にも何か今まで感じた事の無いような痛みが走った。
程なく足の痛みは治まったが、何か途方もない脱力感に満たされている自分がいた。
 
 
 

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