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1920's 時代が現代服を着せた

「平成」が終わろうとしていますね。世の中が未来に向かっているのに対して、私はファッション史にどっぷりハマり、昔の服飾ばかりを調べています…。また、最近のファッションも、昔流行したデザインや素材のリバイバルといえるものが多いですよね。

 しかし、新しいことを考えるには、その歴史のインプットが必要だと思うんです。イギリスのファッションデザイナー、ヴィヴィアン・ウエスト・ウッドもこんな風に語っていたそうです。

「過去において人間が何を成し遂げたかを理解し、それを今日のものと比較するよう努めるべきです。そうすれば私たちは、原因と結果の因果関係が分かるのではないでしょうか。そこから、未来がどんなものか少しずつ見えてくるかもしれません。」

未来のファッションを創造するには、まずは過去のものを知り、そこから私たちに必要なものを考え生み出していくべき ということですね。

では、さっそく現代服の原点ともいえる1920年代のファッションから見ていきます。(ここでは女性服を中心に見ていきます。)

悲劇とファッション

女性の現代服の原点は、ウエストラインを補正するものの女性の身体を縛りつけていたコルセットからの解放でした。世界で初めにコルセットを解放したデザイナーは、ポール・ポワレと言われています。しかし、実際はその代わりにガードルを付けるよう指示したり、歩きにくいドレスやスカートを発表したりと完全に“身体の解放”が実現されたとはいえませんでしたまた、ポワレがゆったりとしたドレスを発表しても、多くの女性は窮屈な服をすぐに脱ぎ捨てることなかったそうです。



(この記事では、ポール・ポワレのその他の作品が沢山載っています。)


それでもポワレが初めて女性ファッションの意識改革に向けた環境をつくったということになりますが、当時の女性にとって本当にそのファッションが必要とされたのは、1914年の第一次世界大戦からとなります。その後のファッションが大きく反映される女性の社会進出は、初めての「総力戦」とまで称されるように、男性の穴を埋めるため女性や子供も労働力として従事させられていたことが大きく関係したのです。

当時、これからの女性像として、ファッションデザイナーとして代表されるのが、かの有名なガブリエル・シャネル。シャネルの服が大幅に売れ行きを伸ばしたのは、大戦中2号店として開いたドヴィールの店に富裕な階層の夫人達が疎開してたのがきっかけ。物資がない時代、それまでの華麗な服装が流行るような雰囲気ではなかったため、簡素で実用的なシャネルの服は、まさにその時代に求められたものを提供したのです。(女性服に実用的なポケットをつけたのは、シャネルが最初だそうです。)



(馬の調教師のセーターからインスピレーションを受けたジャージー素材の服は、戦時中でも安価で手に入り大量生産を可能にしました。)

次は、日本に視点を変えてみましょう。

1920年代以前は、コルセットの着用が不可欠な洋装は、舞踏会とは無縁の一般人には、受け入れられることはありませんでした。(一部16~20歳の若者の間ではモボ(モダンボーイ)モガ(モダンガール)が登場したらしいですが、社会全体には広がっていなかったそうです。)

しかし、1923年の関東大震災は、洋装の機能性の高さを一般人にも広く知れ渡る大きなきっかけになりました。例えば、日本的な洋装の解釈となる簡便服の「あっぱっぱ」。大阪で売り出され、女性の普段着として大流行しました。

(昔の服でも今と全く違和感がありませんが、当時の人々にとっては以前より非常に簡素で着やすい服となったのでしょう。)

デザイナーがどれだけ斬新なスタイルを提案しても、実際に人々がそれを受け入れ消費を拡大させないと価値が消滅してしまうのが、“ファッション”。このように西洋・日本いずれにしても、人々が現代服を求めたのは、多くの悲劇を生んだ戦争・災害がきっかけであると言えるのですね。

スポーツウェアなしでは現代服は語れない

華やかで女性らしく見える一方、身体には大きな侵害があったドレスが「失われた衣装」と化したのは、戦争以外にも理由があります。それは、20世紀以前家庭の中にいる存在だった女性を「室外」に出した、スポーツです。特にテニス自転車は、当時大流行した二大スポーツだったらしいです。

スポーツカジュアルブランドとして「ラコステ」は、当時の伝説のテニスプレイヤーであり、攻撃的なプレイからワニをシンボルマークとしていたルイ・ラコステが、テニス用ポロシャツをデザインし販売したところから始まりました。このポロシャツは、今でもカジュアルファッションとして人気がありますよね!

(当時はスポーツファッションとして画期的だったそうですが、この服装でテニスとは、だいぶ動きにくそう…と思ってしまいます。笑)

「ラコステ」の公式サイトに詳しく載っていて、とても勉強になります。↓

また、この頃オリンピックで女子水泳競技が初めて行われると、身体にフィットしたニットの水着が普及し始めます。次第にパリのオートクチュールでもビーチ・ウェアが発表されるようになりました。

(可愛い!今はビキニスタイルが当たり前になっていますが、それより以前の水着は品があってそのまま外を歩けそうですね。)

先ほどにも登場したシャネルは、自身がスポーツに励んでいたこともあり、趣味の乗馬で、またがって乗るための乗馬ズボンを提案したことで、世の女性はスカートのために横座りすることがなくなりました。

また、リゾートが好きなシャネルは、部屋だけではなくビーチや街にも着ていけるお洒落なパジャマルックを提案し、後に女性のパンツスタイルが広がるきっかけになりました。

(お洒落で可愛いパジャマ。最近だとGUが発売して話題になっていました。パジャマをファッションとして確立させた先駆者は、シャネルだったんですね。)

他にもスポーツウェアから現代のカジュアルファッションに発展したアイテムはあるみたいなので、探してみます。スポーツの発展は、ファッションの発展。こうして文化はつながっているんです。


【おすすめファッション映画・ドラマ】
当時のイギリスのファッションを知るためにおすすめなのが「ダウントン・アビー」。1920年代のファッションで有名な映画「華麗なるギャッツビー」はかなり派手に描かれているそう。シャネルが影響を受けたイギリスの伝統的素材「ツイード」や品のある貴族のファッションを見たい方は必見です。


参考:
   ・「世界服飾史」監修-深井晃子 美術出版社
   ・「20世紀からのファッション史」横田尚美 原書房
   ・「20世紀ファッションの文化史〜時代をつくった10人〜」
     成実 弘至 河出書房新社
         ・「シャネル-最強ブランドの秘密」山田登紀子 朝日新書
   ・「ココ・シャネルという生き方」山口路子 新人物文庫

続く

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