北方領土「2島先行返還」へ 3人の男たちの14年

▼北方領土交渉が動きそうだ。鈴木宗男元衆院議員が「2島先行返還」の方向で安倍総理が交渉を進めるだろうことを記者会見で語った。

〈2島先行返還で打開を 対ロ交渉で鈴木宗男氏/2016/9/28 20:17共同/鈴木宗男元衆院議員は28日、日本外国特派員協会で記者会見し、ロシアとの北方領土交渉に関し、2島先行返還方式で打開を図るべきだとの考えを示した。安倍晋三首相も理解しているとし「12月15日の山口県での首脳会談で、首相が最高の判断をしてくれると信じている」と述べた。/2島先行返還は、北方四島のうち1956年の日ソ共同宣言で引き渡しが明記された歯舞群島、色丹島については返還協議を行い、併せて国後、択捉両島の帰属に関する交渉を行う方式。森政権時代に鈴木氏が主導したとされる。/鈴木氏は「どちらかが100点で、どちらかが0点の外交はない」として、日本側が4島の帰属確認にこだわると交渉は進まないとの認識を表明。4島における共同経済活動も提言した。/首相とは2015年12月から官邸で6回会っていると説明し「私は必ず日ロ関係の話をする。首相は交渉打開のためにどうすればよいか頭に入っている」と述べた。〉

▼「月刊日本」10月号では、東郷和彦氏が「日本人は対ロ恐怖心を捨て去れ」と題するインタビュー。今回の北方領土交渉には3つの障害があるという。

〈第一の障害は、情報が外部に漏れてしまうこと〉

〈第二の障害は、日本人の中に根深く残っている対ロ不信感、対ロ猜疑心〉、

第三は〈アメリカが交渉に介入してくる恐れ〉だ。

この第三の障害をめぐる指摘が興味深い。

9月3日付の朝日新聞に、「11月の大統領選を前にオバマ大統領がレームダック(死に体)化しつつある今なら、日ロ交渉を進めやすい」という外務省関係者のコメントが掲載されています。記者と取材対象者の信頼関係を考えれば、外務省内の誰もこのような発言をしていないにもかかわらず、記者が勝手に「外務省関係者」と書くとは考えられません。外務省内の誰かが確実にこのように述べたのだと思います。これは率直に言って、最悪の発言です。アメリカから見れば、自分たちが選挙戦に突入して対応能力を欠いている時に、日本はやりたいことを勝手にやってしまおうとしているように映るからです。
アメリカ人の中には、フェアネスという価値観が根付いています。その意味で、この外務省関係者の発言は日本がアンフェアな国だと映ります。日本の言葉で言えば、火事場泥棒です。アメリカ人がこれを読めば、「同盟国日本はその程度の国だったのか」という反応が必ず出てきます。そうなれば、政権に関係なく、日本という国は信頼できないということになってしまいます。外務省に勤務している者が、この程度のことも解らないのでしょうか。信じられません。
フェアに議論している限り、アメリカの不満には歩留まりがあると思います。しかし、日本がアンフェアな対応をとれば、来年1月にアメリカで新たな大統領が誕生して体制が整った時に、本格的に日ロの経済協力に介入してくる可能性なしとしません。万一そうなった時に、どこまで日本は初心を貫けますか。〉

▼東郷氏のこの外務省批判は極めて真っ当だ。かつて北方領土を最も日本に近づけ、ひどい目にあった3人の男たちは、今も北方領土を祖国に取り戻すために、それぞれの立場でできることをすべてしている。安倍総理がまず2島を返還できたなら、その最大の功労者は間違いなく鈴木宗男氏だ。そしてもう1人のひどい目にあった男、佐藤優氏は、幾つもの雑誌で北方領土交渉の経緯を、読者がライブ中継を見ていると感じるほど的確に論評している。

今、安倍総理が進めている北方領土交渉は、14年前に3人の男たちが進め、完璧に叩き潰された作戦を、まるでトレースしたように展開中だ。14年前は、あれほどの大バッシングに遭った「2島先行返還」案をコピペした交渉が、今はほとんどまったく反論もなく、スルスルと進んでいるように見える。

あの狂ったようなバッシングはいったい何だったのだろう? この14年で、この日本は何が変わったのだろう? 国際政治の力学において、アメリカが相対的に弱くなったのが原因かもしれない。それにしても、これほどまでに変わるものなのか。狐につままれたような気分だ。

(2016年9月30日(金)更新)

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