「もんじゅ」廃止へ

▼高速増殖原型炉「もんじゅ」が、ついに廃炉の方向で進んでいる。

〈もんじゅ廃炉へ 高速炉研究は維持 原子力政策、転機に 関係閣僚合意/朝日新聞デジタル、2016年9月22日05時00分/政府は21日、原子力関係閣僚会議を開き、高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)について、年末までに廃炉を含む抜本的な見直しをすることで合意した。首相官邸は、約1兆円の国費を投じながら20年以上ほとんど運転していない実態を重くみており、もんじゅは事実上、廃炉に向かうことになる。政府は会議で、プルトニウムを利用する新たな高速炉開発の計画を年内にまとめる方針を確認した。ただ、核燃料サイクルの要に位置づけられてきたもんじゅが廃炉に向かうことで、国のエネルギー政策は大きな節目を迎える。〉

▼どれだけ事故やトラブルが起きても、ほとんど動いていなくても、これまで頓挫しなかった「もんじゅ」を巡って何が起こったのか。9月21日付毎日が経産省と文科省との争いを解説していた。

〈「そんな案、通るはずもない」。規制委からの回答期限である半年が過ぎても見通しを示せない文科省の構想に、エネルギー政策を担う経済産業省の幹部は冷ややかだった。文科省の有識者検討会が報告書をまとめて以降、経産省内では廃炉論が勢いを増し始めた。/その背景を、同省の幹部は「もんじゅが存続すれば、核燃サイクル政策全体への批判に波及する恐れがある。そうなれば、我々の仕事である高速炉開発や原発再稼働にも悪影響を及ぼす」と説明する。政府の核燃料サイクル政策の中核を担うもんじゅは、高速増殖炉の実用化に向けた試験を行う「原型炉」で文科省が管轄するが、「実証炉」を経て商用化に向けた高速炉の技術確立は経産省が担うことになっている。

文科省がこれまでのように粘ろうとしたが、国会も近づくなか、「経産省官邸」(9月22日付東京)といわれる現在の官邸に押し切られたようだ。

▼ところで、官僚機構の縦割りの愚かしさについては、つい先日、これも毎日だが、9月9日付1面コラムに以下の指摘があった。ひきこもりの高齢化が深刻になっているが、内閣府のひきこもり調査はなぜか15歳から39歳までしか対象にしていない。その理由についてである。

〈ひきこもりの長期化、高年齢化が指摘される中で40歳以上が調査対象外とは何とも奇怪である。聞けば内閣府の推計は若年層への対策が目的で、上の年代は厚生労働省の担当らしい。しかし基礎的なデータもないまま、さらに深刻の度を加える問題に取り組めるのか〉

もっともな指摘だ。内閣府と厚労省との縦割りのおかげで、ひきこもりの全容がわからなくなってしまった。しかし、それはそれぞれの省益には関係のないことだ。

▼さて、「もんじゅ」廃炉は日米原子力協定に影響を及ぼす可能性がある。これについても9月21日付毎日が要約してくれていた。

〈政府がサイクル堅持を強調する背景の一つに、日本の再処理を容認している「日米原子力協定」がある。18年7月に改定時期を迎え、現時点では自動更新される予定だが、主な「使い道」だったもんじゅが廃炉扱いになり、プルサーマル計画が進まなければ、自動更新について米国から「待った」をかけられる懸念もある。/日本が国内外に抱える余剰プルトニウムは47・9トン。11月の大統領選で選ばれる新政権の対応は不明だ。

肝心なことは、日本はアメリカの許可を得なければ核燃料サイクルを維持できない、という前提である。日本は今、核兵器保有国ではないにもかかわらず、核燃料サイクルを手がけるという、異例の待遇を受けている。

▼これら二つの政治力学――「経産省と文科省との関係」「日本とアメリカとの関係」――を、9月22日の時点で両方とも書いていた全国紙は、毎日だけだった。「もんじゅ」廃炉については、朝日、讀賣、日経、産経を読んでも、背景がよくわからなかった。

新聞は一日経てば旧聞になる。「最初の歴史」でもある。新しい情報は、しばしば古い情報によってその意味を決定づけられる。必要な旧聞がなければ、新聞は関係性を失った断片になってしまう。日本の新聞には、そのニュースを意味づける背景や文脈について、もっと紙面をさいて報道すべきテーマが多い。

▼経産省の幹部は「もんじゅの廃炉は核燃料サイクルとは別だ」(毎日)と言っているそうだが、これまで国は核燃料サイクルにはもんじゅが不可欠だと主張し続けてきた。今回、国の姿勢が文字通り180度変わったことがわかる。

(2016年9月25日(日)更新)

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