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鼻毛が生えるのは人間だけ?99%の動物、鼻ヌードな理由。リナリウムの謎。

人間以外の動物は、鼻毛がない。

これ、ウソなんです。でも99%の動物には鼻毛は生えていません。
そして、人間の鼻毛は全動物中、最強レベルに太くて硬いのです。

鼻毛が出ているかどうか気にしているのは人間だけです。
なぜ、こんな残念な体に生まれてきたのでしょうか?

99%の動物が鼻ヌードな理由と、
人間だけが特別な理由をご紹介します。


■たべっ子どうぶつたちは、鼻毛がない

突然ですが、質問です。この中で鼻毛が生えている動物はだ~れだ?

正解は、「サル」だけです。

もしかしたらこのサル君には、鼻毛は生えていないかもしれません。
サルの中でも、鼻毛があるサルは選ばれしサルだけなのです。


■人間にとっては、鼻毛はとってもだいじ

鼻毛は、有害な粒子やアレルゲンを捕まえて、気道に入るのを防ぐ優秀なバリア機構です。鼻毛は5μmを超える粒子がカラダのなかに入らないよう、ブロックしてくれています。

2011年に行われた研究では、鼻毛が多いグループと少ないグループを比較すると、鼻毛が少ない人は喘息が発生するリスクが2.7倍に増加することが判明しています。(*1)

喘息は、ホコリやハウスダスト、タバコの微粒子などのアレルゲンによって引き起こされるアレルギー反応です。鼻毛はこれらのアレルゲンから身体を保護してくれる、とっても重要な器官なのです。

しかし、99%の動物には鼻毛は存在しません。

なぜなのでしょうか?


■ネコやイヌのウェットな鼻には理由がある。

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ネコやイヌの鼻には、毛が生えていない細かい溝(シワ)があります。健康なネコやイヌはその表面が湿っています。これをリナリウム(Rhinarium)と呼びます。

リナリウムはフェロモンなどの化学物質を検出する役割を持っています。この機能はニオイを嗅ぐのとは異なり、敏感な触覚として働きます。湿った状態に保つことで、ニオイの原因物質を効率よく集め、保持した物質を検出することができます。リナリウムはニオイ物質をたどって獲物を捕らえたり、仲間と敵を区別するために使われています。

リナリウムには冷感受容器が備わっており、風向きを明確に区別することができることが判明しています。動物は熱をうまく探知する機能を応用して、驚くべき能力を発揮しています。

スウェーデンの研究チーム(*2)によると、犬はリナリウムを使って1.6m先の5cmの物体の熱放射を感知することができると言われています。

まさに獲物を狩るための最重要機関の一つというワケです。


アブラムシにも同じような器官があります。

アブラムシはライナリア(rhinaria)と呼ばれる器官を触覚にわざわざ備え付けており、一種のホルモン物質に反応することが判明しています。(*3)

アブラムシは哺乳類とは全く別の進化を遂げた生物なのに、同じような器官があるということは、自然を生き延びるために「嗅覚」がとても便利な機能だったことを示唆しています。

ほとんどの動物において、ニオイを感じる鼻は非常に重要な器官なのです。

鼻毛が生えていると、微粒子の侵入を防ぐなどのメリットがあるものの、鼻の最大機能である「嗅覚」にデメリットが生じてしまいます。

人間以外の哺乳類は、人間ほど目が良くない場合がほとんどです。嗅覚優位な犬や猫が嗅覚機能を衰えさせることは自殺行為。嗅覚を温存するために、人間とは全く別の進化を遂げたと考えられます。


■人間以外にも鼻毛が生える動物がいる。

「鼻毛が生えるのは人間だけ」という話があるようですが、間違いです。

ヒトを含む直鼻亜目(Haplorrhini)の動物の鼻は乾燥しており、毛が生えているようです。直鼻亜目とはいわゆる類人猿のことで、ゴリラ、チンパンジー、ニホンザル、オランウータンなど数種類のサルを指します。


一方、キツネザル、アイアイなどの曲鼻亜目(Strepsirrhini)の鼻先は湿っています。脳も人間やチンパンジーより小さく、嗅覚を司る嗅覚葉の割合が大きいため、嗅覚に頼っているサルといえます。鼻毛もありません。


ゴリラやチンパンジーには、鼻毛が生えていますが「うぶげ」に近く、人間ほど太くかたいものではありません。これには明確な結論が出ていませんが、二足歩行が影響していると考えられます。

二足歩行

人間は背が高く、二足歩行の動物ほど、鼻をニオイ物質に近づけることが難カンタンではありません。しかし、ゴリラやチンパンジーは人間ほど完璧な二足歩行をしていません。ニオイを嗅ぐのには人間よりは彼らの身体の方が向いているのです。

ゴリラやチンパンジーは、人間に比べて嗅覚をうまく使えるのです。自分の安全を守り、獲物を見つける重要な要素として使うことができます。したがって、鼻毛を過剰に発達させることなく現在まで進化を続けていたのではないかと考えられます。


まとめ

人間の鼻には、鼻毛が生えています。しかし動物界をみると、鼻毛を持っている生物はほとんどいません。

嗅覚を最大限活かすために、鼻毛は邪魔です。哺乳類の多くはリナリウムを持ち、嗅覚を最大限高める工夫をしています。鼻毛で嗅覚を妨げるのは合理的ではありません。したがって、鼻毛の生えない個体が繁栄したと考えられます。

人間にとって、アレルゲンを取り込む弱点の一つにもなってしまった鼻を守るため、鼻毛は有利な進化でした。しかし美的感覚を大きく損なうというジレンマもはらんでいます。

全部抜くのは危険です。ちょい残しができるエチケットカッターを使いましょう。




引用

1.Ozturk, A. B., et al. "Does nasal hair (vibrissae) density affect the risk of developing asthma in patients with seasonal rhinitis?." International archives of allergy and immunology 156.1 (2011): 75-80.

2.https://www.biology.lu.se/research/research-groups/mammalian-rhinarium-group

3.Du, Yongjun, Fushun Yan, and Jue Tang. "Structure and function of olfactory sensilla on the antennae of soybean aphids, Aphis glycines." Kun chong xue bao. Acta entomologica Sinica 38.1 (1995): 1-7.

4.木村賛. "サルからヒトの二足歩行を考える." バイオメカニズム学会誌 38.3 (2014): 169-174.

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