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「映像屋がフォトスタジオを立ち上げるということ 2/3」

さて、今回は映像屋である僕がなぜ異業種であるフォトスタジオ事業を始めることにしたのか、その理由をお話しします。前回のアーティクルにも書きましたが、コロナ禍によって会社の売上が激減したというのがひとつのキッカケではあります。僕の会社(株式会社オンス)はウェディング業界向けの映像制作を専門とする小規模チームです。今回、このウェディング業界自体が緊急事態宣言などを受けて大打撃を被り、関連する企業やサプライヤー達は軒並み仕事がなくなりました。前から懸念してはいましたが、一つの業界だけに依存するということのリスクがコロナによって顕著化したと感じました。そこで映像制作業という自分たちの強みを生かしつつ、業態転換して新規分野で新しい事業を展開するという必要性に迫られたことは間違いありません。ただしそれはあくまでも一面的な話であり、それだけが理由ではありませんでした。

フォトスタジオを始める理由①

まず、僕らのいる映像業界というのは比較的新しい業種です。「写真」よりも高価なカメラとフィルムで撮影し、そのフィルムを現像して一コマごとに切ったり張ったりして編集し、これまた高価な映写機を使って映像を再生する。「写真」に比べて圧倒的に面倒くさい工程を踏まなければ撮ったものを観ることすらできませんでした。機材の高性能小型化と低価格化によって誰でも映像制作ができる環境が整ってきたのはここ数年ではないでしょうか。写真業界よりも歴史が浅く、しかも作業工程が多いという特性から「映像」は「写真」とはまったく違う道を歩んできたと言えます。

そして商業的な特徴として「写真」は一般消費者に向けたサービスを比較的早い段階から確立させてきました。それまで富裕層が独占していたポートレート(肖像画)を「写真」という新しい技術を使って一般消費者にも提供できるようになったのです。一方「映像」はというと、1970年代頃に結婚式を8mmビデオで記録撮影するというサービスが誕生しました。しかし写真の歩んだ道とは違い、今になってもなおウェディングビデオというジャンル以外の一般消費者に向けた映像サービスは残念ながら確立されていません。

写真業界は、顧客のライフステージに合わせてサービスを提供するという連続性のある消費者向けのビジネスモデルを確立し、ブラッシュアップしてきました。ニューボーンや七五三、入学式、そして成人式や結婚式。「写真」は人の一生に寄り添うことのできるサービスとしての価値を提供することに成功しました。これをお手本として「映像」も一般消費者に向けた「人生に寄り添うサービス」を展開させることが出来ないかと考えました。つまり、もっと気軽に日常の暮らしの中で、人生の糧となるような映像作品を作るサービスの確立を目指す事。それはすなわち「映像の民主化」を成し遂げるという事なのです。

この目的を達成するため、すでに完成された「写真」のビジネスモデルであるフォトスタジオ(写真館)という業態を利用しようと考えました。表向きはフォトスタジオと称していますが、目的は一般消費者に向けた映像サービスの啓蒙と普及です。もちろん「写真」を提供しますが、同時に「映像」の価値も広めることで少しでも「プロに映像を撮ってもらう文化」を創り上げていくことが一つ目の大きな理由です。

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フォトスタジオを始める理由②

新しい事業を始めるもう一つの大きな理由は働き方の問題です。ウェディング業界の平均勤続年数は他の業界に比べて短いというリサーチもあり、基本的に人が長く定着する職場環境とは言いにくいのが現状です。そして業界の中でも写真や映像に関する人材の流動性は高く、独立してフリーランスになったとしても大きく稼げるのはほんの一握りと言っていいでしょう。ウェディングを本業とする映像クリエイター人口は映像業界の中でもほんの数パーセントの存在であり、ほとんどが臨時的な副業クリエイターやアルバイトで占められているのが現実です。

そんなニッチな業種ですが、ここ数年のウェディング映像の品質向上によって新卒で映像クリエイターを目指したいという学生や若者が増えてきました。本当にありがたいことだし、歓迎すべきことだと思っています。しかしながら、この業界の平均勤続年数の短さを考えると手放しでは喜べません。若いうちは何とでもなりますが、やがて懸念される体力低下やクリエイティビティ―の枯渇、柔軟性の喪失など様々な課題と隣り合わせになりがちです。大手のようにプレイヤーからマネージャーに職種を変えればいいという単純な話でもありません。そこには小規模チームだからこそ抱える問題として「ブライダル業界 ≠ 持続可能性のある働き方」という課題が必ず頭をもたげてきます。

僕たちの理念は「撮る人も撮られる人も一緒に豊かになること」です。ウェディング映像クリエイターがこの先もずっと自分のスキルと経験を活用できる環境を考えたとき、写真業界が作り上げた「人生に寄り添うサービス」の映像版を作ることができないかと考えました。ウェディング業界以外でも持続可能な働き方ができるクリエイターの職場 =フォトスタジオという「人生に寄り添う」システムの構築。これからこの仕事に希望を持って門を叩いてくる新しい人たちに誇れるような環境や文化を整えなければならない。作り手(クリエイター)が年齢を重ねても自分のスキルと経験を生かして働き続けることのできる業界を作っていくことが会社としての使命なんじゃないかと。

これが今回フォトスタジオという業態を選んでチャレンジしてみようと思った背景です。

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新規事業の成功率

企業が業態転換して新規事業を立ち上げる場合の成功率は28.6%。そのうちの50%は経常利益が増加せず、トータルで80%以上が持続的に儲けるシステムの構築に失敗しています。(参考:経済産業省)なかなか厳しい数字ですね。僕もフォトスタジオのアイデアを実行に移す前に、そういったデータは調べ尽くしました。いろんなリスクを計算し、なるべく少ない投資で最大限の効果を得る方法を考え抜いたつもりです。もしこのまま何もしなければ新規事業立ち上げに関する短期的なリスクは当然発生しませんよね。

でも僕が一番怖いのは何もしないことによる中長期的なリスクの発生です。このフォトスタジオ運営の最終目標はウェディング業界とは別の売り上げの柱を立てることです。しかし、それはまさにゼロから起業するのと同じこと。まずはスモールスタートさせて少しずつでいいからノウハウを積み重ねていくことこそが重要だと思ってます。そういう意味で、この事業は僕にとって未知の業界に対する「強行偵察」みたいなものかもしれません。ではどういう戦術でフォトスタジオを運営していくつもりなのかを次回お話ししていきたいと思います。


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