ピアニッシシモで讃美歌を

 
こわれたい、うたを、うたってほしいと、きみにこわれたいのだ。
 

その名前を呼ぶためだけにこの喉があればよかった、大したことも言えないくせに簡単にかすれていく声などきみのためにしかいらないと思った、明け方の淡い空気に溶けて、消えてしまう細い声など。

人間がうたう理由を知らない、ぼくたちが分からないだけで動物たちだっていつもうたっているのかもしれなかった、それはヨロコビで、カナシミで、イカリで、アイなのかもしれなかった、きっと研究しているひとがいる、けれど、ぼくは彼らの時間を無駄にして、なにも知らないまましぬことにする、それが、精一杯の敬意だと、分かってくれるだろうか、理解られたくもないひとたちよ、理解られなくてもよい動物たちよ。

イヤホンから流れる美しいおとこの声、あぁ、こんな声なら、きみに歌をうたえるだろうか、それは、キスやセックスよりよほど情欲的な愛のような気がしてしまうので、ぼくはきみがキッチンで口ずさむ声を聴くたびに、神よ、と祈ったこともないだれかに感謝してしまいたくなる、ぼくらがすぐに放り投げたりするしあわせとはそういうものらしい、きみは、それを理解しているので、うたをうたえるのだろう、だから、ぼくに、うたをこわないのだろう。




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