「美意識過剰」

 諦めるな! その一言で、音を上げる人の口を封じられますか?
 振り返るな! その一言で、過去に囚われた人の鎖を断ち切れますか?
 怖がるな! その一言で、しり込みする人の恐れを取り除けますか?
 緊張するな! その一言で、ガチガチになった人の体を解きほぐせますか?
 負けるな! その一言で、戦おうとする人の力を増やせますか?
 ひるむな! その一言で、勇気の出ない人の背中を後押しできますか?
 迷うな! その一言で、悩める人の憂鬱をかき消せますか?
 そして。
 死ぬな! その一言で、自殺しようとしている人の命を救えますか?
 わたしは身の丈を思い知りました。わたしの言葉があまりにも無力だということを。わたしの幼稚で拙く大雑把で乱暴な言葉では、今はもういなくなってしまった彼女の一助となることができませんでした。
 つい先日、秋の始まりと共に、短い置き手紙だけ残し、春を見ることなく、この世から去っていってしまった、彼女。大切に温めてきた絆は、あっという間に無くなったのです。いまさら天にわたしの声が伝えようがありません。彼女の思いは残されたものからもわからないまま。わたしは泣き崩れました。
 バットよりダイアモンドより硬い何かで、とことん打ちのめされ、地に這いつくばり砂を味わいました。実に苦いものです。二度とこんな思いはしたくありません。
 今、わたしの目の前にいるあなたへ。そして、まだわたしが出逢うことのないあなたへ。
 ガラスよりも脆く、雲よりも頼りなく、夢よりも儚いあなたに届く言葉を、わたしは持っていません。
 ですから、お願いです。一つ、何でもいい。できることを表現してみてください。小説でも音楽でも絵画でも種類は問いません。たった一言でも、たった一文字でもかまいやしないのです。
 わたしから贈る代わりに、あなたから貰えませんか?
 図々しいのは承知です。この際それくらいの傲慢を押し付けなければ、世界はきっと変えられない。
 わたしは辛抱強く待ち続けます。どれだけかかってもいい。ずっとここにいますから。
 信じてくださいますか? こんな小さなわたしに説得力など微塵もないですね。
 でも、少しでもいい、何か感じるものがあったなら、わたしに教えてください。恥ずかしければこっそりでいいです。
 ここまで読んでくれてありがとうございます。
 では、右手の小指の用意をしてください。約束しましょう。
 また、いつか。

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